ゲルストマン症候群とは?症状やリハビリを解説!【特徴・原因・評価】

みなさんは、ゲルストマン症候群という障害をご存知でしょうか。この障害は、指の認識や文字を書くこと、計算、左右の識別といった4つの機能に困難が生じる脳の機能障害の1つです。発達障害と間違われやすいのですが、原因や特性は異なります。早期に気づいて適切な支援につなげることで、子どもたちの可能性を大きく広げることができますよ。この記事では、ゲルストマン症候群の主な症状、検査方法やリハビリなどについて解説しています。ぜひ、今後の参考にしてみてください。

ゲルストマン症候群とは

4つの症状がある脳機能障害

ゲルストマン症候群は、脳の特定の部位が損傷を受けることによって発症する脳機能障害。この症候群には特徴的な4つの症状があり、それぞれが高次脳機能の障害を示しています。まず1つ目は、手指失認(しゅししつにん)で、自分の指の名前や位置を正確に認識できなくなります。2つ目は、左右失認で、左右の区別がつきにくくなりますよ。3つ目は、失書(しっしょ)と呼ばれる書字障害で、文字を書く能力が著しく低下します。そして4つ目は、失算(しっさん)という計算能力の障害。これらの4つが同時に見られる場合、ゲルストマン症候群が疑われます。

ゲルストマン症候群の症状

指の失認

指の失認(手指失認)は、自分自身や他人の手の指を正確に認識したり、名前を言い当てたりすることができなくなる症状です。例えば、「人差し指を出して」と言われても、どの指が人差し指なのか分からなくなったり、自分の手を見てもそれぞれの指を識別できなかったりします。これは、視覚や感覚の問題ではありません。脳の情報処理における障害です。特に、左頭頂葉の角回と呼ばれる部分の損傷が関係しており、単なる記憶の問題ではなく、空間的・身体的な認識の混乱が起きていると考えられています。日常生活では、手先を使った作業や身振りを用いたコミュニケーションに支障をきたすことがあります。

失書症

失書症(アグラフィア)は、書く能力が部分的または完全に失われる症状です。ゲルストマン症候群においては、特に文字の構成や配列に関する障害が顕著であり、正しい字の形を思い出せなかったり、書くべき場所を誤ったりします。これは、言語と運動を結びつける脳の機能に異常が起きているために発生しますよ。文字を書く作業は、思考と言語を手で表現する複雑なプロセスを含むため、失書症は学業や仕事に大きな支障を与えることがあります。

失計算症

失計算症(アカシア)は、計算能力が低下または消失する症状です。たし算やひき算などの基本的な計算ができなくなり、数の概念そのものが曖昧になる場合もあります。例えば、3+2といった簡単な問題に答えられなかったり、数字を並べる順序が分からなくなったりしますよ。この障害も脳の左頭頂葉の損傷と関係しており、数的処理に必要な空間認識や言語理解の機能がうまく連携できなくなるために起こります。失計算症は買い物や時間の管理、家計の記録など、日常生活に直接影響するため、支援や補助ツールの利用が必要となる場合があります。

左右失認

左右失認は、自分や他人の身体の左右の区別がつかなくなる症状です。例えば、「右手を挙げてください」と言われた際に左手を挙げてしまったり、「右に曲がってください」という指示を理解できずに迷ってしまうといった場面が見られます。これは、身体の左右のマッピングが脳内で混乱するのが原因とされていますよ。左右の判断は日常的に頻繁に使われる認知機能であるため、左右失認があると移動や着替え、運転など様々な場面で困難が生じる可能性があります。

ゲルストマン症候群の原因

完全には明確になっていない

ゲルストマン症候群の正確な原因は、現時点では完全には明確になっていません。ただし、多くの研究から脳の左頭頂葉の一部である角回(かくかい)と呼ばれる領域の損傷が深く関与していることが分かっています。この領域は、言語や計算、空間認識、身体の位置感覚など、複数の高次脳機能を統合する重要な場所と考えられています。角回の損傷は、脳卒中や脳腫瘍、頭部外傷、感染症や変性疾患など様々な要因によって引き起こされる可能性がありますよ。そのため、ゲルストマン症候群は特定の病気に限定されたものではなく、複数の疾患の一部として現れることもあります。また、まれではありますが、発達性のゲルストマン症候群とされる子どもの症例も報告されています。そのため、神経発達の過程で起こる脳機能の偏りも原因の1つとして考えられていますよ。

ゲルストマン症候群の影響

日常生活の動作が困難になる

ゲルストマン症候群は、複数の高次脳機能に障害をもたらすため、日常生活に様々な困難を引き起こします。例えば、指の名前や位置を認識できないことで、手先を使った動作(ボタンを留める、箸を持つ、タイピングなど)がぎこちなくなります。また、失書により、文字を書くことが困難になり、学校や職場でのメモや記録、書類記入などが難しくなりますよ。このように、ゲルストマン症候群は外見上目立たない障害でありながら、実際には生活のあらゆる場面で不便さを伴い、本人のストレスや社会的孤立につながることもあります。そのため、周囲の理解と適切な支援、そして必要に応じたリハビリテーションが重要となります。

ゲルストマン症候群の検査

脳の異変の調査

ゲルストマン症候群が疑われる場合、まず行われるのが脳の構造や機能に異常がないかを調べる画像検査です。主にMRIやCTなどが用いられます。脳卒中や脳腫瘍、外傷による出血、または神経変性疾患などが原因である可能性を調べることが目的。また、必要に応じて脳波検査やSPECT(脳血流シンチグラフィー)などの機能的検査が行われることもあります。こうした画像検査は、症候群の診断を確定するためだけでなく、リハビリや治療計画を立てる上でも重要な情報を提供します。

手指認知テスト

手指失認の有無を調べるために行われるのが、手指認知テストです。この検査では、検査者が患者の手や指を使って、特定の指を示し「これは何指ですか?」と尋ねたり、「中指を挙げてください」と指示を出したりします。患者が正確に指の名称を答えられなかったり、指示された指を挙げることができなかった場合、手指失認の可能性が高いと判断されますよ。また、左右の手を交互に使わせたり、目を閉じた状態で触覚に頼って識別させるなど、複数の方法で確認が行われます。このテストでは、言語的理解や運動機能に問題がないことを確認したうえで、指の認知そのものの能力を評価します。

左右認知テスト

左右失認の有無を確認するために行うのが、左右認知テストです。この検査では、患者に「右手を挙げてください」「左足を動かしてください」といった指示を与え、身体の左右を正確に認識できるかを調べます。また、検査者が身体のある部分を指して「これは右側ですか、左側ですか?」と問いかけることもありますよ。さらに、鏡像のように混乱しやすい状況を設定し、視覚と身体の感覚が一致するかどうかを確認することもあります。左右認知ができない場合、日常生活での混乱が多くなるため、早期の発見と対応が重要です。

数の認知・操作・計算テスト

失計算症を診断するためには、数に関する認知や操作、計算能力を評価するテストが行われます。基本的には、簡単な足し算や引き算、かけ算、わり算などの筆算や暗算の問題を解かせることから始まります。さらに、「5より大きい数を言ってください」「2つの数字の大小を比べてください」といった数の概念を確認する質問も含まれますよ。また、数字の順番を並べ替える課題や、簡単な金銭計算の問題を用いて、実生活に即した数的処理の能力を評価します。テストは、年齢や教育レベルに応じて内容を調整する必要があります。

読み書きテスト

読み書きに関する能力を確認するためには、失書や失読といった言語に関わる障害の有無を評価する読み書きテストが実施されます。書字能力については、「名前を書いてください」「指定された単語を書いてください」などの課題を通じて、字の形や文の構成、スペースの使い方などを評価します。読みの能力については、「この漢字を読んでください」「この文の意味を説明してください」といった指示を出して、音読と理解の両面を観察しますよ。ゲルストマン症候群では特に書字に障害が見られることが多いため、失書の程度を詳しく把握することが重要です。学習歴に関係なく症状が出るため、個々の基準に沿って客観的に評価を行います。

ゲルストマン症候群のリハビリと対応

認知リハビリテーション

ゲルストマン症候群に対するリハビリの中核をなすのが、認知リハビリテーション。これは、障害された高次脳機能に対して、繰り返しの訓練や補助的手段を通じて、機能の回復または代替手段の獲得を目指すアプローチです。例えば、左右の識別が困難な場合には、色分けや身体の一部に印を付けるといった工夫を通じて、視覚的な手がかりを利用しながら訓練を行います。指の認識が困難な人には、実際に手を使った遊びやゲーム形式の練習で楽しみながら指の機能を意識づけますよ。また、失書や失計算に関しても、個別に難易度を調整した課題を使って段階的にトレーニングを行います。

作業療法

作業療法は、日常生活で必要な動作を再獲得するためのリハビリテーションであり、ゲルストマン症候群の患者にとっても重要な支援手段。特に、手指の機能障害や空間認知の困難がある場合には、ボタンを留める、文字を書くや道具を使うといった基本的な動作の再訓練が行われます。作業療法士は、患者一人ひとりの症状と生活背景に応じたオーダーメイドの訓練プランを作成し、実用的なスキルの回復を目指します。例えば、書字が困難な人には文字を書く代わりに音声入力を使ったり、計算が苦手な人には電卓や支援アプリの使い方を指導したりします。また、職場や家庭での環境調整についてもアドバイスが提供され、本人が安心して日常生活を送れるように支援が行われますよ。

教育的支援

特に、学齢期の子どもがゲルストマン症候群と診断された場合には、教育現場での支援が欠かせません。失書や失計算、左右の混乱などは、学習の進行に大きな影響を与えるため、教師や支援員が子どもの特性を理解し、それに応じた教育的配慮を行うことが重要。具体的には、板書の代わりにプリントを配布する、計算問題では補助的なツールを使う、左右の区別には色やマークを用いるなどの工夫が挙げられます。保護者と学校、医療機関が連携することで、子どもが安心して学べる環境が整えられます。

ゲルストマン症候群と発達障害の違い

障害の部位が異なる

ゲルストマン症候群と発達障害は、どちらも学習や行動、認知機能に影響を与える障害ですが、脳内で問題が生じている部位には大きな違いがあります。ゲルストマン症候群は、主に脳の左側の頭頂葉、特に角回と呼ばれる部位に損傷があることによって発症します。一方で、発達障害(自閉スペクトラム症や注意欠如・多動症など)は、広範な神経回路や発達過程の異常が関与しており、複数の領域に影響を及ぼすとされていますよ。つまり、ゲルストマン症候群は明確な局所的損傷に基づく障害であるのに対し、発達障害はより広範で複雑な神経発達の特性と言えるのです。

発症のタイミングが異なる

ゲルストマン症候群と発達障害のもう一つの大きな違いは、発症のタイミングです。ゲルストマン症候群は多くの場合、脳卒中や脳外傷、脳腫瘍などによって成人以降に突発的に発症する後天的な障害です。つまり、もともとは問題がなかった認知機能に突然障害が生じるため、本人や周囲にとって強い違和感や混乱を伴いますよ。一方、発達障害は、出生前後の脳の発達過程において生じる先天的な障害であり、幼児期から行動や発達に特徴が見られます。例えば、言葉の遅れ、対人関係の困難や集中力の欠如などが早期に見られることが多く、成長とともにその特徴が明らかになります。

まとめ

ゲルストマン症候群は複雑な脳の障害

いかがでしたか?ゲルストマン症候群には4つの症状があり、日常生活や学習、仕事に大きな支障をもたらします。発症の原因は完全には解明されていませんが、脳卒中や外傷など後天的な要因によるものが多く、発達障害とは異なります。診断には複数の認知テストや画像診断が用いられ、リハビリテーションや教育的支援、作業療法によって、日常生活の質を改善することが可能ですよ。このように、ゲルストマン症候群は症状や原因、対応すべてにおいて多面的な理解と支援が必要な障害であり、医療・教育・福祉の連携が欠かせません。保育現場では、専門職や家庭と協力しながら温かく見守る姿勢が何より重要ですよ。