場面緘黙症という障がいを知っていますか?場面緘黙症とは、家族や親しい人の前では普通に話せるけど、知らない人や大勢の人の前では言葉が出ず話せなくなってしまう障がいのことです。このような症状がある子供への対応方法について、あまり知らないという方も多いのではないでしょうか。この記事では、場面緘黙症の具体的な症状や保育園での対応方法、治療方法について紹介します。場面緘黙症について知りたい保育士さんは、ぜひ参考にしてみてくださいね。
場面緘黙症とは
特定の社会的場面で話せなくなる障がい
場面緘黙症は、知らない人や大勢の人の前など特定の社会的場面で話せなくなってしまう障がいです。常に話せない状態が続くわけではなく、家族の前など身近で安心できる相手や空間では話すことができます。こうした点が場面緘黙症の特徴と言えますね。具体的な症状は、声が出せなくなることや体を動かすことができなくなることです。話すことができるかどうかは周りの状況や環境によって決まるため、選択制緘黙という名称が使われることも多いですよ。
性格によるものと誤解されやすい
場面緘黙症の子供は家族の前ではスムーズに話せるため、ただの人見知りだと誤解され、見過ごされてしまう場合が多いです。しかし、場面緘黙症は特に早期発見し治療することが大切だと言われています。なぜなら、場面緘黙症に気づかず適切な支援を受けられなかった子供は、生きづらさを抱えたまま生活を続けるうちに、二次障がい的にうつ病を発症する可能性があるからです。また、場面緘黙症の影響で学校の成績や評価に影響が出る場合もありますよ。子供時代の場面緘黙症の治療には周囲のサポートが必要不可欠です。子供が家族以外の人と接しているときの様子をよく観察し、疑わしいことがあればすぐに専門医を受診しましょう。
2~6歳ごろ発症することが多い
場面緘黙症は、2~6歳にかけて発症することが多い傾向です。大人になってから発症する場合もありますが、たいていは子供時代に発症するようです。また、場面緘黙症の男女比は女子の方がやや多いですよ。性格的にもともと静かな子供もいますが、場面緘黙症の疑いがある場合は早めに専門医に相談して治療が必要かどうかを確認してみると良いですね。保育士は、場面緘黙症の疑いがある子供に気づいたら、保護者に具体的な状況を説明したうえで、保護者と場面緘黙症について話し合ってみましょう。その際、保護者が過剰に不安になったり心配になったりしないように、適切な配慮が必要ですよ。
大人になると自然に治ることもある
場面緘黙症は、成長し大人になるにつれて、自然と症状が治まることが多いと言われています。しかし、自然に治るからと言って適切な治療を受けないと、幼少期のうちからコミュニケーションに対する自信を持てず、劣等感を抱く原因になってしまいます。また、場面緘黙症が原因で不登校や人間不信になる可能性もありますよ。子供の場面緘黙症に気づいたら、すぐに専門医の診察を受け、早期に適切な治療を受けましょう。
場面緘黙症は発達障がいと関係している?
発達障がいとは別の障がい
場面緘黙症は発達障がいとは別の障がいであると認識されています。場面緘黙症は家族の前などではスムーズに話すことができるため、発達障がいが原因で発話ができない子供とは異なる治療が必要です。しかし、ASD(自閉スペクトラム症)という発達障がいを抱える子供は、場面緘黙症を併発する場合が多くみられるという研究結果もあります。そのため、場面緘黙症は発達障がいとの関わりが全くないとは言い切れないのが現状です。
子供の場面緘黙症の主な症状
特定の場面で話せなくなってしまう
子供の場面緘黙症の主な症状を紹介します。まず、代表的な症状は、話せなくなることです。知らない人や大勢の人の前など、特定の社会的な場面でのみ声を出すことができなくなり、話したくても話せない状態になってしまいます。家族や親しい人の前ではスムーズに話せることが特徴ですよ。また、場面緘黙症は不安によって引き起こされるため、場面緘黙症の子供たちは、場面緘黙症以外の不安に関連した症名も診断されていることが多い傾向です。
特定の動作ができなくなる
場面緘黙症になると、話ができなくなるだけでなく、特定の動作をするときに体を動かせなくなることもあります。自分ではやりたいと思っている行動でも、思い通りに体を動かせません。例えば、みんなの前で先生に名前を呼ばれて手を上げなければならないときに、手を上げたいと思っているのに手や体が動かせなくなる状態が当てはまります。話ができても行動が思い通りにできなければ、場面緘黙症の症状の一つとして当てはまりますよ。
体が緊張して反応できなくなる
場面緘黙症の子供は話せなくなる以外に、体が緊張して全く動かせなくなるという症状があります。この症状が深刻になると、朝クラスに入り自分の席に着いてから一歩も動くことができず、トイレにも行けずお漏らししてしまうことがあります。体の緊張は、危険に対して反応する脳機能である扁桃体と言う部分の働きによって起きます。HSP気質(生まれつき感受性が強く敏感)な子供は、過敏に扁桃体が反応してしまうことが多いと言われています。HSP気質が疑われる子供は、場面緘黙症の症状が出ていないか見守ってあげましょう。
場面緘黙症の原因
脳の扁桃体の過敏性が原因と言われている
場面緘黙症になる明確な原因はわかっていませんが、現段階では脳の扁桃体の過敏性が原因と言われています。脳の扁桃体とは、危険に反応する役割を持つ部分です。その扁桃体が過敏に働きすぎることで些細な刺激でも大きく反応してしまい、強い不安を感じて話せなくなります。このことから、脳の扁桃体の過敏性が原因で場面緘黙症になると言われているようですよ。もちろん扁桃体の過敏性だけが原因とは限りません。例えば、話し言葉を理解するのに時間がかかる場合や、話したいことを言葉として組み立てるのに時間がかかる場合もあります。
不安を感じやすい性格から場面緘黙の症状が現れることがある
場面緘黙症は、さまざまな場面で強い不安を感じる人が発症しやすい傾向と言われています。また、場面緘黙症を発症する子供たちの共通点は、些細なことでも不安になり緊張を感じやすい性格であることが挙げられます。場面緘黙症を発症した子供の保護者は、自分の育て方が原因なのでは?と思い悩んでいることがあります。もし悩んでいる保護者を見かけたら、場面緘黙症の原因と言われている内容を説明し、育て方が直接の原因ではないことを優しく伝えてみましょう。
場面緘黙症の治療方法は?
本人と身近な人へのカウンセリング
場面緘黙症の治療法は、まだ完全には確立されていません。現段階では、場面緘黙症を発症した子供本人と身近な人へのカウンセリングを行う方法が主流のようです。また、場面緘黙症の治療には、子供がカウンセリングを受ける以外に、専門医や教師、保育士などが保護者と連携することも大切ですよ。場面緘黙症の子供は不安を感じる場面で話せなくなる傾向があります。カウンセリングを受けて、不安を感じる具体的な原因や場面、不安を感じない環境などを本人と身近な人達が自覚することが大切です。それにより、過度な不安を排除した穏やかな生活が期待できますよ。
場面緘黙症の子供への適切な接し方
場面緘黙症の子供が過ごしやすい環境を把握する
場面緘黙症の子供にとって、どんな環境が過ごしやすいのか把握しましょう。場面緘黙症という症名が同じでも、子供によってそれぞれ特徴は異なります。先生とだけ話せる子や仲の良い友達とだけ話せる子、小さな声でなら話せる子など、子供の特徴ごとに適した接し方がありますよ。例えば、仲の良い子と話せるようであれば、グループ活動の時に仲の良い子と同じグループに入れてあげると、場面緘黙症の子供の不安が軽減するかもしれません。また、保育園での様子を保護者と必ず共有しながら細やかな連携をとり、子供がリラックスできる環境を提供しましょう。
筆談や身振りでのコミュニケーションを尊重する
場面緘黙症の子供と会話ができなくても、コミュニケーションは大切です。だからといって無理に話をさせる必要はありません。子供が筆談や身振りでのコミュニケーションを取ろうとしていたら尊重してあげましょう。保育士が場面緘黙症の子供に接するときは、「はい」か「いいえ」の二択で答えられる質問をするのがおすすめです。首を振るなどの身振りで、声を出さずとも意思表示がしやすいからです。他には、何か物を選んでもらうときに指さしで選んでもらうことや、指さしができない場合は目配せで選ばせてあげるなどの工夫ができますよ。
みんなと同じ空間で話さなくてもいい活動をする
場面緘黙症の子供が過ごしやすい環境を優先しすぎて、場面緘黙症の子供がクラスで孤立してしまわないように注意しましょう。例えば、塗り絵や折り紙など、話す必要がない活動をみんなで行うのがおすすめです。個人での活動なら話す必要はない上に、簡単にみんなの輪に入ることができますよ。また、子供の症状に合わせた活動を行いましょう。例えば、話ができなくても体を動かすことはできる子供なら、みんなと運動する活動に一緒に参加すると良いでしょう。
場面緘黙症の子供にやってはいけない対応
無理やり話をさせようとする
場面緘黙症の子供に絶対にやってはいけないことは、無理やり話をさせようとすることです。場面緘黙症は、不安になりやすい性格が原因なので、無理やり話をさせようとしても根本的な解決になりません。むしろ、もっと不安になって保育園に来ること自体が苦痛になってしまいます。無理やり話をさせようとするのはやめましょう。もしも話すことに慣れてほしいなら、場面緘黙症の子供が話せる場面や環境に先生が訪問して、話す機会を設けるのがおすすめです。保育園で話すことができない子供でも環境が変われば話せることがあるので、無理に子供に話をさせるのではなく、まずは環境を変えてみましょう。
喋れないことを責める
人前で喋れないことを責めてはいけません。もし、どうして話せないの?などと責めてしまうと、子供にとって負担がかかってしまいます。また、場面緘黙症の子供は人前で話せないこと、動けないことに劣等感を感じていることがあります。喋れないことを責めるのは本人のコンプレックスを刺激してしまう可能性があるのでやめましょう。保育士や保護者がするべきことは、場面緘黙症の子供を認めることです。そして、子供が場面緘黙症で悩みすぎないように日頃からメンタルケアをしてあげましょう。場面緘黙症の子供には、保育士や保護者が絶対的な味方であると伝えることが大切ですよ。
人前で話せたことを褒める
場面緘黙症の子供が人前で話せたとき、思わず褒めたくなってしまいますが我慢しましょう。場面緘黙症の子供は不安になりやすく、緊張しやすい性格であることがとても多いです。もしも保育士が話せたことを褒めてしまうと、場面緘黙症の子供は頑張って話さなきゃと焦ってしまったり、プレッシャーを感じてしまうことがありますよ。良かれと思って褒めたことが、プレッシャーのもとになるかもしれないことを覚えておきましょう。
まとめ
場面緘黙症の子供に適切な対応をして見守ろう
場面緘黙症とは、知らない人や大勢の人の前で話せなくなってしまう障がいのことです。場面緘黙症の子供の特性と接し方を知り、子供一人一人にどんな保育が適しているか考えてみてくださいね。また、場面緘黙症は早期発見で改善が見込める障がいです。保育園で全く話さなかったり動かなかったり、場面緘黙症の症状に似た行動をとる子供を見かけたら、保護者に場面緘黙症の可能性があることを具体的に伝えてあげましょう。保護者から接し方などについて相談を受けたときは、ぜひこの記事を参考に話し合ってみてくださいね。