認知の歪みとは?発達障害との関係も解説【チェック・一覧・直し方・認知行動療法】

認知とは、目にしたことや体験したことをもとに、物事を理解したり判断したりする心の働きのこと。この理解や判断に歪みが生じることを認知の歪みといいます。たとえば「友だちがあいさつを返してくれなかったから嫌われてるかも…」と思ってしまうのも、認知の歪みの一例です。こうした歪みが強くなると、不安や気分の落ち込みが起こりやすくなりますよ。この記事では、認知の歪みについてわかりやすく解説し、代表的な歪みの種類や原因、そして日常の中でできる対処法も紹介しています。自身の感じ方や考え方に気掛かりな点がある方は、ぜひ参考にしてみてくださいね。

認知の歪みとは?

思考に偏りや癖がある状態

認知の歪みとは、物事の受け取り方や考え方に偏りや癖がある状態のことをいいます。友だちに声をかけたのに返事がなかったときに「きっと嫌われているんだ」と決めつけてしまうのもその一例です。「忙しくて気づかなかったのかも」とも考えられるのに、マイナス思考に思い込みやすくなるのです。認知の歪みがあると、一般的な考え方に沿って物事を判断するのが難しくなり、感情に流されて決断してしまうこともありますよ。誰にでも起こりうる心の反応ですが、放っておくとストレスが蓄積されてしまいます。自身の認知に歪みを感じたときは少しずつ思考を整理していきましょう。

発達障害における認知の歪みの例

極端な思考

認知の歪みの一つに、0か100の極端な考え方(白黒思考)があります。この思考傾向が強いと、「少しでもうまくいかないなら全部ダメ」と感じてしまい、曖昧な部分を受け入れにくくなります。たとえば、子どもが工作で少し失敗しただけで「もう私は何をやってもダメ!」と落ち込むようなケースがあります。絶対や決してといった断定的な言葉をよく使っているときは、極端な考え方になっているサインかもしれません。このような極端な考え方はASD(自閉スペクトラム症)に多く見られます。

過度な一般化

発達障害における認知の歪みの2つ目の例は、過度な一般化です。これは、ほんの少しの経験から「いつもこうなる」「自分は絶対にできない」といった思い込みをしてしまう状態です。本来、物事を正しく一般化するには、さまざまな経験を積んで判断することが大切ですよね。たとえば、子どもが発表会でうまく話せなかったときに「私は人前で話すのが苦手だから、もう二度とできない」と感じてしまうのもその一例です。過度な一般化もASD(自閉スペクトラム症)の子どもによく見られます。

心のフィルター

発達障害における認知の歪みの3つ目の例は、心のフィルターです。これは、自分の心にかかった見えないレンズのようなもので、物事の悪い面ばかりに目が向いてしまう状態を指します。本来なら、良いことやうまくいった部分も見えるはずなのに、心のフィルターがかかっていると「あの時できなかった」「あれは失敗した」といったマイナス面ばかりを拾ってしまうのです。このような状態が続くと、物事を悲観的にとらえやすくなり、他のゆがんだ考え方は極端な思考にもつながってしまうことがあります。心のフィルターは、ASD(自閉スペクトラム症)の子どもによく見られますが、発達障害だけでなく不安障害などの子どもにも多いです。

マイナス思考

発達障害における認知の歪みの4つ目の例は、マイナス思考です。これは、物事を必要以上に悪い方向へ考えてしまう傾向を指します。たとえば、テストで良い点を取った子が「たまたまだよ」「次はきっと失敗する」と言ってしまうような場面です。うまくいったことを素直に喜べず、自分の努力や力を信じることが難しくなってしまいます。また、ちょっとした失敗でも「自分はダメだ」と強く落ち込み、自己肯定感が下がりやすいのも特徴ですよ。マイナス思考は、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)などの子どもによく見られます。

論理の飛躍

発達障害における認知の歪みの5つ目の例は、論理の飛躍です。これは、限られた情報から早合点してしまったり、見えていない部分まで悪い方向に想像してしまう考え方を指します。たとえば、先生に少し厳しく注意されたときに「もう嫌われたんだ」と思い込んでしまうようなケースです。実際には、ただ心配して声をかけてくれただけかもしれません。このように、ほんの一部の出来事だけをもとに悲観的な結論を出してしまうと、心が不安やストレスでいっぱいになってしまいます。まだ起きてもいないことを「きっと失敗する」と決めつけるのも、論理の飛躍の一つです。論理の飛躍もASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)のどちらにも見られますよ。

拡大・過小解釈

発達障害における認知の歪みの6つ目の例は、拡大・過小解釈です。これは、出来事を実際よりも大げさに受け取ったり、反対に小さく捉えすぎてしまうことを指します。たとえば、仲の良い友達に一度遊びを断られただけで「自分は嫌われたんだ」と感じてしまうことがあります。逆に、テストで少し良い点を取っただけで「自分はもう完璧だ」と思い込み、努力をやめてしまうような過大評価の傾向も見られることがありますよ。拡大・過小解釈は、ASD(自閉スペクトラム症)やうつ病などの子どもによく見られます。

感情的な決めつけ

発達障害における認知の歪みの7つ目の例は、感情的な決めつけです。これは、自分の感じた気持ちをそのまま事実だと思い込んでしまうことを指します。本来、人の感情はとても主観的で、同じ出来事でも受け取り方は人それぞれ違いますよね。たとえば、先生に「静かにしようね」と声をかけられただけで、「自分は嫌われている」と感じてしまうことがあります。しかし、先生はただ「授業に集中してほしい」と思って伝えただけかもしれません。このように感情を根拠に判断してしまうと、冷静に物事を見つめることが難しくなり、誤解が生まれてしまうこともあります。感情的な決めつけは、ASD(自閉スペクトラム症)や不安障害の子どもに見られますよ。

〇〇すべき思考

発達障害における認知の歪みの8つ目の例は、〇〇すべき思考です。これは「こうするべき」「こうでなければならない」といった考え方に強くとらわれてしまう状態を指します。本来、人はそれぞれ置かれている環境や気持ちが違い、同じ行動をとることが難しい場面もありますよね。たとえば「友達なら毎日一緒に遊ぶべき」と期待して、相手が断ったときに「もう嫌われたのかも」と感じてしまうことがあります。このように、すべき思考が強くなると自分の期待が裏切られたときに強いストレスや怒りを感じることもあります。〇〇すべき思考は、ASD(自閉スペクトラム症)や強迫性障害の子どもに見られますよ。

レッテル張り

発達障害における認知の歪みの9つ目の例は、レッテル貼りです。これは、ひとつの出来事や失敗をきっかけに、「あの人はこういう人」「自分はダメな人」といった決めつけをしてしまう思考を指します。本来、人は状況や気持ちによって行動が変わるものですが、レッテル貼りの思考が強いと、その一面だけで全体を判断してしまうことがありますよ。たとえば、友達に一度注意されたことで「自分は嫌われ者だ」と思い込んでしまったり、他の子がミスをしたときに「この子はいつもできない」と感じてしまうことなどが挙げられます。このような思考は、相手や自分の良い面を見えにくくしてしまうこともあります。レッテル貼りは、ASD(自閉スペクトラム症)の子どもによく見られます。

自己責任化

発達障害における認知の歪みの10個目の例は、自己責任化(個人化)です。これは、自分の力ではどうにもできない出来事に対して「自分のせいで起こった」と感じてしまう思考を指します。本来、世の中には自分ではコントロールできないことがたくさんありますよね。たとえば、運動会の日に雨が降って中止になったときに、「自分が雨男(雨女)だからだ」と思い込んでしまうようなケースです。このような考え方は、一見すると責任感が強いようにも見えますが、実際には自分を過度に責めてしまい、心が疲れてしまうことにつながります。自己責任化は、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)の子どもに見られますよ。

認知の歪みが発生する原因は?

自動思考とスキーマによって発生する

認知の歪みは、私たちの自動思考とスキーマによって生じると考えられています。自動思考とは、出来事が起きたときに瞬間的に浮かぶ考えやイメージのことです。そしてスキーマとは、これまでの経験や価値観から作られた、物事の捉え方の土台のようなものですよ。たとえば、過去に失敗を責められた経験があると、「どうせ自分はダメだ」と自動的に思ってしまうことがあります。このように、スキーマが自動思考に影響を与え、それが積み重なることで認知の歪みが生まれていくのです。

認知の歪みによる影響とは?

学業成績の低下

認知の歪みによる1つ目の影響は、学業成績の低下です。たとえば、「自分は勉強ができない」「どうせ間違えるに決まっている」といった否定的な自動思考が強いと、挑戦する意欲が失われてしまいます。本来であれば少しずつ理解できる内容でも、最初からあきらめてしまうことで、学習の機会を逃してしまいますよ。また、テストでの一度の失敗を「もう全部ダメだ」と受け止めてしまうと、集中力や自信を保つことが難しくなります。このような思考の偏りが積み重なることで、結果として学業成績の低下につながってしまうのです。

人間関係の悪化

認知の歪みによる2つ目の影響は、人間関係の悪化です。たとえば、友達のちょっとした言葉を「自分のことを嫌っているに違いない」と受け取ってしまったり、相手の気持ちを考えずに「こうするべき」と決めつけてしまうことがあります。このような思考の偏りが続くと、誤解やすれ違いが生まれ、相手との信頼関係が少しずつ崩れてしまうことがありますよ。また、自分を責めすぎたり、反対に相手を責めすぎたりすることで、心の距離が広がってしまうこともあります。

認知の歪みをチェックする方法

サイトでセルフチェックする

認知の歪みをチェックする1つ目の方法は、インターネット上でセルフチェックを行うことです。お子さんに認知の歪みがあるかもしれないと感じたとき、まずは手軽に試せる方法としておすすめです。たとえば、心理テスト形式でいくつかの質問に答えるだけで、自分やお子さんの思考の傾向を確認できるサイトがあります。専門的な診断ではありませんが、「最近ちょっと気になるな」と思ったときに、気軽に取り組めるのが良いところです。結果をもとに、必要に応じて専門機関に相談するきっかけにもつながりますよ。

参考サイト:Emostyle,Inc│認知の歪みテスト

メンタルクリニックで相談する

認知の歪みをチェックする2つ目の方法は、メンタルクリニックで専門家に相談することです。インターネット上のセルフチェックは手軽に行える一方で、結果の正確さには限界があります。たとえば、ネットの診断で認知の歪みがあると出ても、実際には問題がない場合もあります。反対に異常なしとされても、見逃されているケースもあるかもしれません。そのため「最近気持ちが不安定かも」「考え方が極端になっている気がする」と感じたときは、専門家に相談してみることをおすすめします。クリニックでは一人ひとりの状況に合わせて丁寧に話を聞いてもらえるので、原因や改善のヒントを具体的に得ることができますよ。

認知の歪みの治し方

認知行動療法(CBT)

認知の歪みの治療には、認知行動療法(CBT)と呼ばれる方法がよく用いられます。認知行動療法では、まず自分の考え方や感じ方の癖に気づくことから始めますよ。たとえば、「失敗したから、自分はダメだ」という極端な考えを「うまくいかなかっただけで、次は工夫できるかもしれない」といった柔らかい思考に変えていくのです。このように、現実的で前向きな考え方を少しずつ身につけることで、不安や落ち込みが軽くなり、日常生活が過ごしやすくなっていきます。子どもの場合も、専門家のサポートを受けながら、無理のないペースで進めることが大切です。

まとめ

認知の歪みは症状や原因を知ることで改善できる!

いかがでしたか?今回は発達障害における子どもの認知の歪みについて解説していきました。認知の歪みは、誰にでも起こりうる思考の偏りですが、症状や原因をしっかり理解することで少しずつ改善していくことができます。まずは、お子さんがどんな場面でどんな考え方をしやすいのかに気づくことが大切ですよ。そして、セルフチェックや専門家への相談を通して客観的に振り返ることで、ゆがんだ思考を柔らかく整えるヒントが見えてきます。認知行動療法などを取り入れながら、自分を責めずに穏やかな心を取り戻していくことが、改善への第一歩になりますよ。