ウィスクという言葉を聞いたことはありますか?ウィスクは心理検査の一種で、知能を測定する道具の一つ。日本だけではなく世界各国で使われている有名な心理検査です。今回の記事では、このウィスク検査の特徴や受け方、そして受けた後にどう活用するかについてまとめました。子供への扱い方や対応方法に悩んでいる、他の子ともしかしたら違うかもと悩んでいる方は、ぜひ読んでみてください。また子供が検査を受けることを進められたものの、どういう検査かわからず不安を感じている、という方もぜひ参考にしてくださいね。
ウィスク検査とは
児童向けの知能検査
ウィスク(WISC)検査とは、児童向けに作られた知能検査のこと。デイビッドウェクスラーによって開発された知能検査で、WISCはWechsler Intelligence Scale for Children(ウェクスラー式児童用知能検査)の頭文字をとった略称です。ウェクスラーによって開発されたウェクスラー式の知能検査は、対象年齢によって以下のように種類が分けられています。ウィスク検査は、このうちの5歳~16歳11ヶ月の児童を対象とした知能検査ですよ。
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WPPSI(ウェクスラー式幼児用知能検査):対象年齢2~7歳
WISC(ウェクスラー式児童用知能検査):対象年齢5歳~16歳11ヶ月
WAIS(ウェクスラー式成人知能検査):対象年齢16歳~90歳11ヶ月
ウィスク検査の所要時間は受ける子供によって異なり、最大で90分。インテーク面接(一回目の面接のこと)→基本検査→補助検査の順番で行われます。臨床心理士などの検査官と原則1対1で行われます。
70年以上の歴史をもつ代表的な知能検査
ウィスク検査は20以上の国で使用される、代表的な知能検査。このウィスク検査は1939年にウェクスラーによって発表されたものであり、70年以上の歴史を持っています。発表されてからは改定が繰り返され、現在の最新版はWISC-Ⅴ。ただ現在日本ではWISC‐Ⅴが普及しておらず、一般的にはWISC‐Ⅳが用いられています。よって今回の記事ではこちらのWISC‐Ⅳをとりあげ、検査の内容や検査結果の活用方法について解説していきます。
そもそも知能検査ってなに?
知能を測定するための心理検査
知能検査は、知能を測定するための心理検査。選ばれたいくつかの認知機能を指標として測定します。そして知能検査で測る認知機能は、下記のようなものです。
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“人間がものを認識するために必要な知的な能力のことです。記憶力、判断力、集中力、実行力、計画能力、統合能力、問題解決能力などが含まれます。”
統合失調症ナビ「日常生活に困難をもたらすことがある「認知機能障害」とは?1)」より
知能(認知機能)というと主に勉強に関わることのように感じられますが、実際は日常生活の全てに関わっています。ただウィスク検査を含めた知能検査で、こういった認知機能の全てを測ることはできません。知能検査で測定する指標はいくつかに限られていており、それを目安におおまかな知能を測定します。
ウィスク検査を受けられる場所と費用
専門機関や病院で受けられる
ウィスク検査を受けられる場所は、大きく分けて以下の三つです。
①病院
児童精神科や、小児、思春期外来などで取り扱っています。子供の状況を見て、主治医が検査の必要性があると判断した場合のみ、検査が行われます。医師の診断を希望する場合は病院を利用しましょう。
➁カウンセリングルームや心理相談室
比較的予約が取りやすく、検査をお急ぎの方はこちらがおすすめ。こちらもカウンセラーと相談した上で、必要性があると判断された場合に検査が行われます。一方でカウンセリングルームや心理相談施設は医療機関ではなく、お薬の処方や診断書の発行などは行うことができません。
③市町村の教育支援センター(適応指導教室)
教育支援センターは、学校とは別の場所に教育委員会等が用意した公的機関。学校を長期で休んでいる子供の学校生活への復帰を支援するために設置されています。そのため教育支援センター行われるウィスク検査の目的は、学校など教育機関の先生と連携して支援内容を見つけること。支援を前提としているので、安心して検査を受けられますよね。ただ、こちらでも診断書を発行してもらうことはできません。
受ける場所によって費用が異なる
上記のうちどの場所で受けるかによって、ウィスク検査の費用が異なります。
①医療機関を利用する場合
医療機関を利用する場合は、保険適用となり1350円で受けることができます。
➁教育支援センターを利用する場合
教育支援センターを利用する場合は、無料で検査を受けることができます。
③カウンセリングルームや心理相談室を利用する場合
カウンセリングルームや心理相談室は医療機関ではなく、健康保険を利用することができません。有料の場合、1~2万円程度の費用がかかります。
検査を受ける場所によって、検査内容や検査官の質が違うことを心配している方もいるのではないでしょうか。実はウィスク検査を行う際には、専用の検査キットを使い、その中の問題冊子や実施・採点マニュアルに従う必要があります。そのため場所によって検査内容が違うことはありません。また検査を実施するにあたっての資格要件については日本文科化学社が定められおり、検査者レベルにおいて最高難易度のレベルCに該当する者のみが行えることになっています。したがってどこで受けても十分な教育や研修を受けた専門家が検査を行いますので、安心してください。一方で検査後に検査結果に基づいた分析やアドバイスをどのくらいもらえるかは、検査者の裁量に任されているようです。
ウィスク検査で何が分かるの?
子供の認知や行動の特性が分かる
ウィスク検査を受けることで、子供の認知や行動の特性を知ることができます。そしてこの認知や行動の特性を調べるために用いられるのが、いくつかの指標。その指標が言語理解・知覚推理・ワーキングメモリー・処理速度の4つであり、またそれを総合して算出されるのが全検査IQです。いくつかの指標から知能を測定することによって、子供の脳が何を得意として、何を苦手としているかを知ることができます。
ウィスク検査を受けるメリット
育てにくさの理由が分かる
なんでうちの子は話すのが苦手なのだろう、などとお子さんに関して悩みを抱えている保育者の方も多いのではないでしょうか。こういった場合何が悩みの原因なのかわからず、対応に困ってしまいますよね。ウィスク検査を受けることによって、こういった育てにくさの原因が明らかになることがあります。これはウィスク検査を受けることでわかる子供の認知や行動の特性が、育てにくさの原因となっていることがあるためです。一方で、ウィスク検査でわかる特性以外が、育てにくさの原因である場合もあります。まずは医師や公認心理士などに相談して、ウィスク検査を受けることが適当であるか判断してもらいましょう。
結果を適切な支援に繋げることができる
子供に問題行動や発達の遅れがある場合、ウィスク検査を使いその原因を調べることで、適切な支援に繋げることができます。また学校の先生などに配慮してほしい場合なども、検査結果を利用することでより簡潔に問題点を伝えることができますよね。加えて親御さんが悩んでいる場合、子供自身も何かしらの悩みや生きづらさを抱えている場合もあります。ウィスク検査を受けるだけではなく、課題が見つかった場合は必ず支援に繋げましょう。
ウィスク検査の問題内容は?
ウィスク検査の問題内容は非公開
ウィスク検査の詳しい問題内容は非公開とされています。子供が検査前に問題内容を知ってしまうと、検査結果に影響が及んでしまうためです。また苦手な分野を見つけ、後に対策へと繋げることがウィスク検査を受ける目的の一つ。ウィスク検査で回答できないことに対して不安を持つ必要はありません。ただ、お子さんがどのような検査を受けるのか気になる方も多いですよね。実際の問題内容は非公開ですが、下記で紹介する診断項目が検査の概要になりますので、ぜひそちらを参考にしてください。
ウィスク検査の診断項目は5つ
1.言語理解
これは言語的なことに対する理解や把握能力を測る指標です。言語理解指標を調べるために行われる基本検査と補助検査は以下の通り。基本検査は全ての子供に行われる検査、そして補助検査は必要があると判断された場合のみ行われる検査です。
基本検査 | 類似:2つの言葉がどのように類似しているか 単語:絵や言葉の意味を答える 理解:日常的な問題の解決やルールなどの理解について |
補助検査 | 知識:一般的な知識に関する質問をする 語の推理:ヒントから共通の概念を特定する |
2.知覚推理
知覚推理は、目で見て物事を理解したり操作する能力を測る指標。知覚推理指標を調べるために行われる基本検査と補助検査は以下の通りです。図や絵などを使った検査が多そうです。
基本検査 | 積木模様:モデルとなる模様と同じものを作る 絵の概念:複数の絵から共通の特徴の絵を選ぶ 行列推理:空欄の図版を見せ、選択肢から当てはまるものを選ぶ |
補助検査 | 絵の完成:冊子を見せ、欠けている重要な部分を答える |
3.ワーキングメモリー
ワーキングメモリ―は、記憶や注意集中力に関する能力を測る指標。ワーキングメモリ―指標を調べるために行われる基本検査と補助検査は以下の通りです。言葉や数字を一時的に記憶する検査が行われるようです。
基本検査 | 数唱:読み上げられた数字を決まった順で答える 語音整列:読み上げられた数字とかなを決まった順で答える |
補助検査 | 算数:算数の問題を口頭で提示し、答えさせる |
4.処理速度
処理速度は、手先の器用さやスピードに関する能力に関する指標。処理速度指標を調べるために行われる基本検査と補助検査は以下の通りです。こちらは書き取りなど細かい作業の能力も問われるようです。
基本検査 | 符号:数字と対になっている記号を書き写す 記号探し:記号グループを見て同じ記号があるかを答える |
補助検査 | 絵の抹消:制限時間内に絵を見て、特定の物に線を引く |
5.全検査IQ
全検査IQは、全般的な知的水準を測る指標。上記の4つの指標の得点を総合して算出されます。ウィスク検査において、IQの値は以下のように分類されます。
ウィスクⅣでは、IQ100が全体の平均値。ここから離れた値のIQをもつ子供ほど、割合が少なくなります。例えばIQが非常に低い(IQ70以下)と分類される子供と、IQが非常に高い(IQ130以上)と分類される子供は合わせても全体の5%程度しかいません。このためIQが非常に低い子供や、非常に高い子供は周囲の子供たちとの違いに悩むことが多くなります。またIQはウィスク検査の重要な指標ですが、検査結果として全検査IQの値だけをみるのは不十分です。例えば同じIQ100でも、全ての得点が平均的な場合と、指標間の得点の差が激しい場合が考えられますよね。支援に繋げる際には、検査結果全体を見る必要があります。
ウィスク検査の結果を支援に繋げよう
言語理解の得点が低い子供に必要な支援
言語理解の得点が低い子供は、言葉を使ったコミュニケーションをとることが苦手。例えば親御さんや先生から言葉で指示を出されても、すぐに理解できないことがあります。加えて、自分自身が言葉を発信することも苦手。コミュニケーションをとる際にはゆっくりと伝えてあげること、また時には言葉に代替して絵や図などの目に見える形で伝えることが効果的です。加えて子供たちが言葉に詰まっていても、せかさずゆっくりと待つようにしましょう。
知覚推理の得点が低い子供に必要な支援
知覚推理の得点が低い子供は、視覚情報、つまり目で見た情報を処理するのが苦手。図や表などを読みとることが難しかったり、探し物が苦手だったりします。この場合は言語理解の得点が低い子供同様、情報処理が終わるまでゆっくりと待ってあげることが必要です。一方で言語理解の得点が低い子供とは反対に、図や表などの資格情報を言語に置き換えて伝えるのもいいでしょう。加えて知覚統合の得点が低い子供のは、周りを見て行動することが苦手な場合もあります。何をしていいかがわからず、周りにおいていかれてしまうことも。定期的に周囲の人にアドバイスを求める習慣をつけてもらうなどの対策をとりましょう。
ワーキングメモリーの得点が低い子供に必要な支援
ワーキングメモリーの得点が低い子供は、一時的に物事を覚えておくことが苦手。暗算ができなかったり、お母さんに頼まれたことをすぐに忘れてしまったりします。こういった子供たちに対しては、メモを取る習慣をつけてもらうことが効果的。スマートフォンなどの端末が利用可能な場合には、リマインド機能がついたメモ帳やカレンダーのアプリケーションを利用するのもおすすめです。初めはメモを取ることや見返すことを忘れてしまう可能性があるため、習慣化するまではしっかりサポートすることが必要。会話中子供に聞き返された際は、もう一度丁寧に伝えましょう。
処理速度の得点が低い子供に必要な支援
処理速度の得点が低い子供は、行動や思考などが全体的にゆっくりと進みます。そのため周りの子供たちよりも色々な点で遅れてしまうことが多く、子供自身が劣等感を抱いてしまうことも多々。先生や保護者の方は、子供の行動のスピードに重きを置かずに、行動が最後まで遂行できたかを見てあげるようにしましょう。子供自身にも時間に余裕を持って行動することや、ゆっくりでも丁寧に行動することを心がけてもらってくださいね。
全検査IQの得点が低い子供に必要な支援
全検査IQが70以下の場合は、知的障害(精神遅滞)と診断されることがあります。しかし診断の条件はIQだけではなく、知的機能(IQ)と適応機能の二つを合わせた上での評価。全検査IQが70以下でも、適応機能が十分にある場合、知的障害と診断されないこともあります。
また知的障害は知的機能(IQ)と適応機能の評価によって等級があり、軽度・中度・重度・最重度の4つ。
知的障害だと診断された場合も、様々な支援が用意されていますので安心してください。知的障害のある方の生活を守ることが、以下の法律で定められています。
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知的障害の方の生活を守る法律
1.障害者基本法
2.障害者総合支援法
3.知的障害者福祉法
4.児童福祉法
これによって知的障害を持つ方は、税金の控除や免税、手当の支給などの社会福祉サービスが受けることができます。加えて教育の分野においては特別支援教育が学びの場として用意されていますので、こちらを検討してみるのもいいでしょう。
全検査IQの得点が高い場合も支援が必要
IQ130以上は非常に高いのボーダーライン
ウィスク検査のIQの分類では、130以上が非常に高いとされています。もちろん本人や周りが悩みや苦痛を抱えていない場合は、130を超えていても無理に支援を行う必要はありません。逆に全体のIQが130を超えていなくても、一部の分野で著しく高い得点を取っている子供が支援を求めている場合もあります。子供や周囲の反応に応じて柔軟な対応をとりましょう。また、ギフテッドの子供たちについてメディアで取り上げられることがあります。ギフテッドは、生まれつき特定の分野において突出した才能を持ち合わせている人のこと。こちらについて知能検査で診断することができると思われることも多いのですが、知能検査だけでギフテッドと診断することはできません。これはギフテッドという言葉の定義があいまいであり、さらにIQでは測れない能力が突出している場合もあるためです。しかしながら知能検査は、ギフテッドと診断する際の目安の一つになります。
全検査IQの得点が高い子供に必要な支援
ギフテッドを含めたIQが著しく高い子供たちに対して、通常の教育課程のみで対応するのは好ましくありません。通常の学校教育においては、クラスの全員が理解することを目標に授業が進められるためです。通常の教育課程に加えて、より深く学ぶことができる機会を設けましょう。例えば、数学に興味のある子どもであれば数学の教室に通わせることや、子供の進み具合に合わせて難易度の高い参考書を与えるといった対応が考えられます。また海外などでは、ウィスク検査の結果をもとにして入学選抜を行い、IQの高い子供に合わせた教育を行う学校やプログラムもあるようです。加えて海外の学校は飛び級制度などもあり、日本よりも子供がのびのびと学べる環境が整っているといえます。日本において学校教育の壁を感じた場合は、海外への留学を考えてみるのもいいかもしれません。
まとめ
ウィスク検査で子供の特性を把握して支援に繋げよう
親御さんが育てにくいと感じていたり、子供自身が生きづらさを感じていたりする場合は、ウィスク検査を受けてみるのも一つの手。ウィスク検査でわかる子供の認知や行動の特性から、悩みの原因が分かることがあります。また知能検査では得点の低い所に気を取られてしまいがちですが、得点の高い所をどのように生かすか考えることも忘れないようにしましょう。加えて、ウィスク検査は子供たちの特性を測るための一つの指標になりますが、特性の全てを結果に反映できるわけではありません。ウィスク検査では測ることのできない子供たちの特性にも目を向けることが大切です。ウィスク検査でわかる長所や短所、そしてその他の個性も加味したうえで、適切な支援に繋げてあげてくださいね。
参考文献
統合失調症ナビ『日常生活に困難をもたらすことがある「認知機能障害とは?」1)』ヤンセンファーマ 〈https://onl.tw/DCqpxnq〉
発達心理サポートセンター「016【WISC-Ⅳ】WISC-Ⅳ(ウィスク4)検査の資格要件」発達心理サポー トセンター〈https://onl.tw/tYivkhH〉
Psycho Psycho「ウェクスラー式知能検査とは?その特徴や種類、解釈の仕方を解説」Psycho Psycho〈https://onl.tw/XRXrAYg〉
~臨床心理士/公認心理士がもの申す~ココロノカタチ「WISC™-IV知能検査の結果の見方、その特徴と解釈について、受験者や家族向けに説明します。ウィスクフォー」〈https://onl.tw/cGa5ZxJ〉
全国地域生活支援機構「知的障害とは?」全国地域生活支援機構〈https://onl.tw/RhpXYXb〉
太田保之・上野武治『学生のための精神医学 第3版』(2020) 医歯薬出版
松田修「日本版WISC-Ⅳの理解と活用」(2013) 教育心理学年報 52 (0), 238-243 一般社団法人 日本教育心理学会