子どもの発達や行動に悩む保護者は少なくありません。また、日常生活での接し方や対応方法に迷い、ストレスを感じることもあるでしょう。そうした悩みを抱える保護者が、子どもとの適切な関わり方を学び、子どもの行動改善や成長を促すための方法として注目されているのがペアレントトレーニングです。専門的な知識と実践的なスキルを身につけることで、家庭環境がより安定し、子どもも安心して生活できるようになりますよ。今回の記事では、ペアレントトレーニングについてご紹介します。ぜひ参考にしてみてくださいね。
ペアレントトレーニングとは?
知的障害の子どもを持つ保護者を対象としたプログラム

ペアレントトレーニングとは、子どもの行動や発達に応じた適切な関わり方を、保護者が学ぶための支援プログラムです。特に知的障害のある子どもを対象としたプログラムでは、褒め方や指示の出し方、問題行動への対応方法など、日常生活に役立つ実践的なスキルを段階的に習得できます。保護者が子どもに対して一貫した対応を取れるようになることで、子どもの行動の安定や親子関係の改善が期待できるでしょう。具体的なトレーニング内容は以下の通りです。
・指示の出し方
・行動観察と記録
・問題行動への対応
・日課や環境の整え方
・ロールプレイと振り返り
こうした内容を数週間~数か月にわたって学び、繰り返し実践することで、保護者が子育てに自信を持ち子どもとの関係も安定していきます。
療育の対象となる児童についての詳しい内容はこちらの記事を参考にしてみてください。
ペアレントトレーニングで期待できる効果【保護者】
育児スキルの向上

ペアレントトレーニングを受けることで保護者は育児スキルを大きく向上させることができます。例えば、子どもが指示に従わない場面を想定し、短く具体的な指示を出す練習をしたり、子どもが望ましい行動をした際に、その場ですぐに具体的にほめる方法を学んだりします。また、行動観察や記録の仕方を身につけることで、問題行動の原因を冷静に把握し、感情的に叱るのではなく適切な対応を選べるようになります。こうしたトレーニングを繰り返し実践することで、子育てへの自信が高まり、家庭での関わりも安定しやすくなるでしょう。
育児に伴うストレスの軽減

ペアレントトレーニングでは、子どもの行動に振り回されず冷静に対応するための手法を学びます。例えば、癇癪が出たときには無視をする、落ち着くまで待ってから短く指示を出すといった対応を練習します。こうした方法を知ることで、保護者の「どうしたらいいのかわからない」という不安が減り、感情的に叱らずにすむようになるでしょう。その結果、保護者のストレスや疲労感が軽減され、より穏やかに子どもと向き合えるようになりますよ。
同じ境遇の保護者と気持ちの共有
ペアレントトレーニングの中では、保護者同士が体験談や工夫を共有するグループワークが行われます。例えば、朝の身支度がなかなか進まない時に使える工夫や外出時に落ち着いてもらう方法などを出し合い、講師や他の保護者から助言を受けます。同じ悩みを抱える仲間とつながることで「自分だけが大変なのではない」と安心でき、孤立感が和らぎますよ。また、共感や励ましを得られることで、日常の育児を前向きに取り組む力が生まれ、長期的に支え合える関係を築くこともできるでしょう。
子どもの行動に対し理解が深まる

ペアレントトレーニングでは子どもの行動を、きっかけ(Antecedent)、行動(Behavior)、結果(Consequence)に分けて整理する、ABC分析を学びます。例えば、お菓子を買ってほしいと泣く→保護者が根負けして買う→泣くと願いが叶うと学習するという流れを理解できるように分析します。これにより、子どもの行動をわがままだからと感情的に捉えて叱るのではなく、背景や環境要因を冷静に受け止められるようになるのです。行動の意味を理解すると、適切な支援方法や声掛けが見えやすくなり、より良い関わりにつなげられますよ。
家庭内の雰囲気が良くなる

子どもの望ましい行動を増やすために、具体的にその場でほめる練習を繰り返すことで、日常のやりとりが前向きなものに変わっていきます。例えば、片付けができたときに「すごいね、助かるよ!」と言葉をかけたり、トークンやシールで達成感を示したりする方法を学びます。こうした習慣が家庭内に根付くと、子どもは「頑張れば認めてもらえるんだ」と感じ、自発的に行動しやすくなるでしょう。その結果、叱る場面が減り、家族全体の会話も温かくなり、家庭の雰囲気が安定してより過ごしやすい環境が整います。
ペアレントトレーニングで期待できる効果【子ども】
問題行動の改善
ペアレントトレーニングによって、保護者が一貫性のある対応や適切なルール設定、肯定的な関わり方を実践できるようになると、子どもは安心感を得て落ち着きやすくなります。これにより、癇癪や反抗的な言動などの問題行動が徐々に減少するでしょう。また、褒められる経験が増えることで自己肯定感が高まり、望ましい行動が自発的に増えていきます。結果として、家庭や園・学校での適応も良くなることが期待されますよ。
保護者との信頼関係の強化

ペアレントトレーニングを通して、保護者が落ち着いた態度で一貫した対応を取れるようになると、子どもは「安心して甘えられる相手がいる」という感覚を持ちやすくなります。さらに、日常の中で肯定的な声掛けや共感を得られる経験が増えることで、子どもは自分の存在が大切にされていると実感できます。こうした積み重ねは、保護者への信頼感を深めるだけでなく、子どもの情緒の安定や自己肯定感の向上につながり、家庭や学校など社会の中でより良い関わりを築く基盤となるでしょう。
望ましい行動の育成
ペアレントトレーニングにより、保護者が望ましい行動を引き出すための褒め方や強化の方法を身につけることで、子どもは適切な行動が自然と増えていきます。日常生活の中で良い行動が認められ、肯定的なフィードバックを受ける経験が積み重なると、自信や自己肯定感が育まれます。また、保護者の一貫した対応によって、子どもは安心して自分の行動を選択でき、社会性や自己管理能力の発達にもつながりますよ。
コミュニケーション能力の向上
ペアレントトレーニングで、保護者が子どもに対して肯定的で分かりやすい声掛けや適切な応答を行うことができるようになります。その結果、子どもは安心して自分の気持ちや考えを表現できるようになることが期待されます。やり取りの中で相手の話を聞く姿勢や順番を守ることなども自然と身につき、語彙や表現力が向上するでしょう。これにより、家庭内だけでなく友人や先生との関係も円滑になり、社会性や自己肯定感の発達にもつながりますよ。
集団生活への適応力が高まる

ペアレントトレーニングを通して保護者が落ち着いた対応や分かりやすい関わり方を学ぶことで、子どもは集団生活への適応力を身につけやすくなります。例えば家庭で、使ったおもちゃを箱に戻してから次の遊びを始めるといった習慣を繰り返すと、園や学校でも順番を待つ、友だちと協力するといった行動につながります。また、家庭でのやり取りを通して相手の気持ちを考える力も育ち、友達とのトラブルが減少するでしょう。その結果、子どもは安心して集団活動に参加でき、社会的スキルや協調性の向上が期待されますよ。
ペアレントトレーニングの方式
精研式・奈良方式
ペアレントトレーニングにはいくつかの実施方式があり、その中でも精研式と奈良方式は日本で広く用いられています。精研式は、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所(旧精神医学研究所、略称:精研)が開発した方式で、発達障害や行動上の課題をもつ子どもの保護者を対象に、講義とロールプレイを組み合わせて実践的に学ぶプログラム。一方、奈良方式は奈良県立医科大学を中心に発展し、少人数グループでの対話や経験共有を重視します。具体的事例をもとに、日常生活での対応方法や課題解決の工夫を参加者同士で検討し合う点が特徴。どちらも、保護者の行動改善スキルを高め、子どもの成長と家庭環境の安定を促すことを目的としています。
肥前方式
肥前方式ペアレント・トレーニングは、もともと国立肥前療養所(現・肥前精神医療センター)で、自閉スペクトラム症(ASD)や知的障害のある子どもの治療効果を家庭に持ち帰ることを目的に開発されました。現在では、ADHDなど幅広い発達障害への対応にも活用されているそうです。プログラムは全10回程度で、前半が行動理論の講義、後半が家庭での対応を振り返りながら実践を共有する少人数グループ形式で進められます。例えば、食事の前に手を洗うといった日常的な行動を家庭で練習し、観察記録をもとに望ましい習慣化を支援しますよ。また、肥前方式の大きな特徴として、保護者自身の心理的負担や抑うつの改善を重視している点が挙げられます。育児ストレスが保護者のうつ発症の一因となることも多いです。そのため、保護者の心身の安定を整えることが子どもへの支援効果を高める重要な要素となり、保護者自身のメンタルヘルスの改善にもつながると期待されていますよ。
鳥取大学式
鳥取大学式は、応用行動分析(ABA)に基づく理論的・実践的なプログラムで、発達障害を伴う子どもを持つ保護者の支援として開発されました。6〜8回程度のセッションが隔週で行われ、講義とグループワークを組み合わせた構成。学んだ内容は家庭でのホームワーク(行動観察や対応の実践)として取り組み、次回にその成果をグループ内で共有します。プログラム内容は、ほめ方、環境調整、指示の出し方、行動の教え方など、子どもの適応的な成長を促す具体的な技法が中心。その効果として、保護者の養育上の不安や抑うつの減少、健康度の向上など、家族全体のメンタル面の改善が報告されていますよ。
ペアレントトレーニングの研修を受けられる場所の例
病院や医療機関

病院や医療機関では、小児科や発達外来、児童精神科などでペアレントトレーニングを受けられる場合があります。医師や臨床心理士、作業療法士などの専門職が、子どもの発達特性や子どもの行動の背景を医学的視点から評価して、家庭で活用できる対応方法を具体的に指導しますよ。また、診察や検査と並行して行うため、子どもの状態に合った安全で効果的な支援計画を立てられることが特徴です。
大学の心理センター

大学の心理センターでは、発達や行動に課題を抱える子どもとその保護者を対象に、ペアレントトレーニングの研修を行っている場合があります。大学附属の施設は、臨床心理士や発達心理学の専門家が在籍しているので、最新の研究に基づいた支援が受けられるのが特徴。保護者は講義やロールプレイ、個別相談を通して、子どもへの適切な関わり方や行動改善の方法を学べます。また、学生実習や共同研究の場としても活用され、地域の子育て支援拠点として重要な役割を果たしていますよ。
各地の支援団体が運営するNPO法人
ペアレントトレーニングは、地域ごとの発達支援団体や子育て支援団体が運営するNPO法人でも広く実施されています。これらの団体では、発達障害やグレーゾーンの子どもを持つ保護者を対象に、少人数制の講座やワークショップ、個別相談などを行っています。家庭での関わり方や行動改善の方法を具体的に学ぶことができますよ。また、同じ立場の保護者同士が交流し、悩みや経験を共有できる場としても活用され、日常生活の中で実践できるスキル習得と心の支えを得ることができるでしょう。
まとめ
ペアレントトレーニングで子育ての不安を減らそう

ペアレントトレーニングは、保護者が子どもの行動や発達を理解し、適切に関わるための具体的な方法を学べる有効な取り組みです。習得したスキルは日々の生活で実践でき、子どもの自己肯定感や社会性の向上にもつながります。また、同じ悩みを持つ保護者同士の交流によって、精神的な支えや新たな気づきも得られるでしょう。家庭での関係が安定することで、子どもの成長をより温かく見守れる環境が整いますよ。