近年、保育現場では発達障害や身体障害のある子供を支援する障害児保育が大きな課題となっています。特に、発達障害と診断される子供の数が年々増加しており、障害のある子供をサポートする機会も増えています。障害児保育では、子供が発する小さなサインに気づき、一人ひとりのペースに合わせて支援していく姿勢が大切ですよ。今回の記事では、障害児保育における課題や仕事内容、障害を持つ子供との接し方について詳しく紹介します。ぜひ、障害児保育を行う際の参考にしてみてください。
障害児保育とは
保育施設で障害を持つ子供のサポートをする
障害児保育とは、なんらかの障害がある子供のサポートを行う保育のこと。身体的障害や発達障害、精神障害や知的障害をもつ子供のサポートを主に行います。また、発達障害の特徴はあるけれど、診断基準に満たない状態を示すグレーゾーンの子供の保育をすることもあります。グレーゾーンだからといっても症状が軽いという訳ではありません。保育中は、発達障害の診断を受けている子供と同様の対応が必要ですので注意しましょう。
障害児保育の課題
施設によっては受け入れ態勢が万全ではない
障害児保育の主な課題は、施設によって受け入れ態勢が万全ではないことです。これには、支援する側の専門知識不足や経験不足も問題になっていますよ。例えば、施設の人手不足が影響して、専門的な資格を取得していなかったり研修を受けていなかったりする保育士でも、障害児保育にあたっているケースが多々見られているのが現状です。また、障害の程度によっては、障害児保育を受けたくても対象になれない子供も存在しています。こうしたことも含めて、障害児保育への十分なサポートができているとは言い切れず、受け入れ態勢が不十分な状態となっています。
障害児保育における統合保育とインクルーシブ保育について
混同されがちだが根本的な保育方針が違う
障害児と健常児の保育を包括的に行うことを、統合保育やインクルーシブ保育と言います。統合保育は、障害児と健常児の違いを認識したうえで、同じ環境で一緒に保育を行います。一方、インクルーシブ保育は障害の有無、国籍や人種などに関わらず、個々の子供に必要な支援を提供することを言いますよ。日本でのインクルーシブ保育への取り組みは、障害者の権利に関する条約に対して平成19年に批准したことが始まりとなっています。
障害児保育の仕事内容
個別支援計画や自立支援計画の作成
保育園では、月案や週案などのカリキュラムを設定し、目標を達成できるように子供達をサポートします。しかし、障害を持つ子供達にとってカリキュラムを達成することは簡単ではありません。そのため障害児保育では、その子供に合った個別支援計画を作成して、子供のペースに合わせて活動を支援していきます。この個別支援計画には、支援が必要な子供達の現状や課題、今後の支援方針についてまとめられています。個別支援計画があると、質の良い障害児支援を行うために何が必要なのかがわかるため、個別支援計画の作成は保育士にとって重要な仕事と言えるでしょう。
保育活動の中で対象児をサポート
様々な障害を抱える子供達は、他の子供と一緒に同じ活動をすることが難しい場合があります。このとき保育士は、障害を抱える子供達がどのようなサポートがあれば他の子供達と一緒に楽しく活動できるのかを考え、工夫をすることが大切です。まずは、様々な障害がある子供達でも遊びやすく楽しめる環境作りを意識しましょう。例えば、身体的な障害を持っている子供には遊びの内容に合わせたハンデを設けたり、ルールの理解が難しい発達障害の子供には、簡単でわかりやすいルールを設定したりといった工夫がおすすめですよ。
生活指導
障害児保育では子供たちが日常生活で必要な、基本的な習慣を身につけるための生活指導も仕事内容に含まれます。例えば、食事のマナーやトイレの使い方、着替えなどの生活スキルを丁寧に教えることなどが挙げられます。こうした生活指導や支援は、子供たちが自立に向けて少しずつ成長するうえで欠かせません。また、子供たちが集中できず保育士の指導通りに行動できなかった場合でも、感情的に叱るのではなく、子供たちのペースに合わせながら根気強く生活指導や支援を続けることが大切ですよ。
他の子供とのトラブルを防ぐ
発達障害の子供は、自分の気持ちを言語化することが難しいため、他の子供と良好な関係を築くのは簡単なことではありません。相手にうまく言葉で伝えられず、孤立してしまうこともあります。また、物事が自分の思い通りにいかないことでパニックになってしまい、お友達を蹴ったり、叩いたり、引っ掻いたりして怪我をさせてしまう恐れもあります。こうした他の子供達とのトラブルを防いだり、障害を抱える子供が孤立しないようにサポートしてあげるのも、障害児保育における保育士の仕事です。お友達とのコミュニケーションが円滑になるようなサポートを心がけましょう。
障害児保育の加配について
加配保育士とは
加配保育士は主に、発達に遅れがあったり、障害を抱えていたりする子供のサポートをします。加配保育士は、保育施設や保護者からの申請に応じて配置されます。このとき、自治体ごとに決められた規定に沿って、子供2人につき加配保育士は1人などの割合で配属されます。加配保育士は一般的な保育士とは異なる仕事を行う場合があるので、専門知識が必須ですよ。障害のある子供をサポートする加配保育士は、保育施設にとって欠かせない存在になっています。
加配保育士の給与事情
加配保育士の給与は、正社員でおよそ月給20万円~25万円前後が多く、パートや派遣でも時給1100円〜1700円程度となります。加配保育士は、一般的な保育士と違い専門的な知識が求められることが多く、一般的な保育士よりも高待遇な場合が多いことが特徴的です。また、厚生労働省が後援する業種のため、国からの補助金制度などの援助がついてきます。給料+国の補助金制度があると考えみると分かりやすいでしょう。補助金には2つの種類があり、療育支援加算と障がい児保育加算というものがありますよ。
障害を持つ子供への適切な接し方
障害を持つ子供のことを理解する
まずは、障害を持つ子供の特性を理解することが大事です。例えば、発達障害のことについて詳しく調べたり研修に参加したりするのも良いでしょう。また、体が不自由な子供には、どのようなサポート方法ならストレスの軽減につながるのかなどを学び、理解することが大切です。そして、実際に障害を持つ子供と関わりながら臨機応変に工夫をすることで、質の良い適切な保育ができるでしょう。子供の障害についての知識を深めることで、保育士としてステップアップすることも期待できますよ。
障害の特性に合わせた対応を心がける
障害を持つ子供の特性に合った適切な支援を行うためには、普段から子供と積極的にコミュニケーションをとり、どんなことが好きなのか?得意なのか?を観察することが重要です。まずは、子供一人一人の得意不得意をきちんと理解することを心がけましょう。また、むやみに子供を手助けすることは控えた方が良いです。なぜなら発達障害は、得意なことや好きなことには集中して自らどんどん取り組む特性があるからです。その子供の得意分野を伸ばすためにも、必要以上に手助けしないようにしましょう。
子供のペースに合わせる
子供に障害があることで、園全体での活動がスムーズに行えない場合があります。その際に、保育士が焦ったり感情的に怒ることはNGですよ。他の子供とペースが遅れていると、気持ちが焦る保育士もいるかもしれませんね。しかし、そこはグッと堪えて、子供の特性やペースに合わせることが大切です。特に発達障害の子供は、みんなと同じ内容の情報を聞いたり見たりしても、他の子供とは違う受け取り方をすることがあります。混乱を避けるためにも、図やイラストで視覚的に情報を伝えるなど、その子供に寄り添った対応をしましょう。
保護者との連携や協力を欠かさずに行う
障害を持つ子供は様々な症状を抱えており、同じ病名でも個人差があります。そのため、子供の苦手なことや家庭での過ごし方などを保護者から詳しく聞き取り、連携する姿勢が大切です。また、障害児保育では保護者から子育ての相談を受けることもあります。連絡帳で適宜やりとりをして、子供に関する情報交換を欠かさず行いましょう。例えば、子供が施設で過ごしているときの様子など、子供に関する情報を丁寧に共有をすることで保護者の不安要素が解消するかもしれません。このように、障害を持つ子供だけでなく、その家族の不安や立場に寄り添うことも、保育士の役割と言えます。日々の密な連携で、保護者と良い関係を築いていきましょう。
障害児保育で持っておきたい資格
児童発達支援士
児童発達支援士とは、一般社団法人人間力認定協会が認定している資格です。主に、発達障害の知識や適切な支援方法などが学べる資格です。この資格取得に必要なテキストは、専門用語を極力控えたわかりやすい文章で表現されており、知識が不十分な方でも発達障害児に対して理解しやすい点が特徴的です。学習方法は主にテキストとワークブック学習で、自分のペースに合った勉強ができるところが嬉しいですね。詳細は以下の通りです。
受験資格 | 誰でも申し込み可能 |
受講費用(税込) | 37,400円 |
試験料金(税込) | 4070円 |
試験方法 | オンライン受験 |
医療保育専門士
医療保育専門士とは、一般社団法人日本医療保育学会が認定する資格です。主に入院中の子供や病院で治療が必要な子供、その子供を支える家族の生活の質を高めサポートすることが目的の資格です。資格取得には、病院や乳児院等の実務経験を積むことと、資格を認定している協会の会員になる必要がありますよ。医療保育専門士を取得することで、障害があり通院しなければならない子供への適切なサポート方法を深く学ぶことができます。詳細は以下の通りです。
受験資格 | ・病院や乳児院等で1年以上の実務経験があること ・資格認定をしてる協会の会員であること |
資格認定研修費用 | 30,000円 |
資格認定料 | 20,000円 |
早期発達支援士
早期発達支援士とは、一般社団法人こども家族早期発達支援学会が認定している民間資格です。資格を取得することで早期発達支援に関する知識が身につき、日頃の保育に役立てることができます。
受験資格 | ・こども家族早期発達支援学会の一般会員または正会員・資格認定をしてる協会の会員であること ・保育施設や教育機関での勤務経験がある ・こども家族早期発達支援学会指定の12講座を受講 ・過去5年以内に400時間以上子供の支援に関する有償の実務経験がある ・自身の支援活動についての報告書を、こども家族早期発達支援学会に提出が必要 ・こども家族早期発達支援学会の書類選考に合格 |
資格取得にかかる費用 | 約11万 |
発達障害児支援士
発達障害児支援士資格とは、四谷学院が認定している資格。発達障害児への支援に関する考え方やノウハウを学ぶことができる資格です。教材は8日以内なら返品することが可能で、スマホでの学習が簡単にできる点が嬉しいポイント。保育士や学校の先生、児童発達支援事業や放課後等デイサービスで働く福祉従事者など、発達障害児の支援に関わる方でしたら誰でも受験できます。
受講料 | 99,800円 (税込 109,780円)※受験料を含む |
まとめ
障害を持つ子供が過ごしやすい環境づくりをしよう
いかがでしたか?今回の記事では、障害児保育について詳しく解説いたしました。現在、障害児保育に携わっていない方でも、将来的には障害児保育に携わるかもしれません。また、保育士のスキルアップとして障害児保育について学んでおくことで、日頃の保育でも役立つ可能性がありますよ。障害を抱える子供の特性を理解して、一人一人と真摯に向き合い、子供に合ったペースで保育することが大切です。そうすることで、子供達が過ごしやすく、保護者も安心できる環境作りができるでしょう。