自己愛性パーソナリティ障害とは?特徴や接し方を解説!【原因・治療・診断・治し方】

自己愛性パーソナリティ障害とはどのような症状なのかご存知でしょうか。自己愛性パーソナリティ障害とは自分の能力を過大評価する精神的な障害のことです。自己愛性パーソナリティ障害がどのような障害なのかを理解しておくことで、そのような傾向のある子供への支援に役立てることができますよ。今回の記事では自己愛性パーソナリティ障害の特徴、治療法や接し方を紹介しています。ぜひ参考にしてみてください。

自己愛とは

自分を愛すること

自己愛とはナルシシズム(narcissism)の日本語訳です。自己愛の意味は、自分を大切にすることや自分を愛することです。自己愛の語源の由来はギリシャ神話からきていますよ。この神話では、森の妖精エコーがナルキッソスという美少年に夢中になってしまいます。しかし、ナルキッソスはエコーに対して冷淡な態度をとったため、義憤の女神がナルキッソスに罰を与えます。その罰によって、ナルキッソスは水面に映る自分自身に惚れ込んでしまうようになりました。そして、水面に映った自分自身を見つめ続けた結果、衰弱して死んでしまいます。ナルシストという言葉もこの神話が語源と言われていますよ。

精神分析における自己愛とは

一次的ナルシシズム

一次的ナルシシズム、二次的ナルシシズムという概念を挙げた、心理学者であり精神科医のフロイトは、自己愛には発達段階があると説明しています。まずは、一次的ナルシシズムについて解説します。一次的ナルシシズムとは、乳児期に見られる自己愛の最初の形態のことです。この段階では、乳児は自分自身を愛する対象とし、外界と自分の区別がまだ曖昧です。この自己愛は、外部からの愛情や承認がなくても、自己を完全で満たされた存在として感じる状態を指します。自分と他者との区別ができるようになると対象愛へと成長していくと言われていますよ。

二次的ナルシシズム

二次的ナルシシズムは、自己愛が外部から内部に再び向けられる心理的状態を指します。この段階では、外界への愛や興味が弱まり、心のエネルギーが再び自分自身に集中します。これは通常、ストレスや心の傷、外部からの拒絶や孤独感などによって引き起こされますよ。適度な二次的ナルシシズムは心の安定に寄与することもあります。しかし、過剰になると、他者への共感の欠如や自己中心的な態度が強まり、自己愛性パーソナリティ障害などの心理的問題に発展する可能性が高まります。

自己愛性パーソナリティ障害とは

自分の能力に対して過大評価する障害のこと

自己愛性パーソナリティ障害(NPD)とは、自分は特別であり他の人よりも優れているというように、自分の能力を過大評価する精神的な障害のことを指します。他者からの称賛や承認を過度に求める一方で、批判や失敗には非常に敏感です。また、他者を利用したり軽視したりする傾向があり、周囲との関係性において問題を引き起こすことがあります。自己愛性パーソナリティ障害の患者は、自分の思い通りにいかないと怒りを爆発させることがあり、これは自己愛憤怒と呼ばれていますよ。自分が傷つくことを過度に恐れているため、相手を攻撃することで自己防衛をしているのです。

自己愛性パーソナリティ障害の特徴

承認や賞賛への欲求が強い

自己愛性パーソナリティ障害の患者は他者からの承認や称賛に依存しています。そのため、患者の自尊心は非常に不安定で壊れやすいものです。称賛を得られなかったり批判を受けたりすると、深い傷つきを感じて激しい怒りを抱くことがありますよ。この承認欲求の強さは、他者との健全な関係構築を妨げる要因にもなります。また、失敗に敏感であるため、自尊心を守るために引きこもったり他者を攻撃したりします。

自分へのイメージが誇大している

自己愛性パーソナリティ障害のもう1つの特徴は、自分に対するイメージが現実以上に誇大していることです。この障害を持つ人は、自分を特別で他者より優れている存在だと感じており、成功や美しさなどについて非現実的な幻想を抱くことがあります。このような自己イメージは、一見自信に満ちているように見えますが、内面では自己評価の脆弱さを隠す防衛機制として機能していますよ。誇大な自己イメージは、周囲の人々とのトラブルや過剰な期待による挫折を引き起こすことがあります。

他者への共感が薄い

自己愛性パーソナリティ障害の患者は、他者への共感が著しく欠如している点も特徴と言えます。他者の感情や立場を理解する能力が乏しく、自己中心的な行動を取ることが多いです。その結果、周囲の人々が傷ついたり、不満を抱いたりすることがありますよ。例えば、相手の感情を無視して自分の利益を優先することや、他者の成功を認めるのを嫌がる行動が見られる傾向です。この共感の欠如は、学校や家庭などでの人間関係に悪影響を及ぼし、孤立を深める要因となることが多いです。

自己愛性パーソナリティ障害の原因

コフートの説

精神分析学者のハインツ・コフートは、適切な鏡映反応(子供が親から受ける肯定的なフィードバック)が健全な自己愛の形成に必要だと指摘しました。幼少期における親との関係が重要です。特に親が子供の感情やニーズに適切に応答しなかった場合に、自己愛性の問題が生じると考えられています。子供が親から十分な称賛や愛情を得られない場合、自己評価の安定性が損なわれてしまい健全な自己愛が形成されにくくなりますよ。

カーンバーグの説

医学者のカーンバーグの説では、気質的要因や環境的要因の影響が自己愛性パーソナリティ障害の原因になるとしています。気質的要因とは、人が生まれながらに持つ感情の振れ幅や物の見方のことであり、環境的要因とは親子関係や家庭環境のことを指します。また、親が子供に期待をしすぎて過保護になったり、「あなたは特別な存在」と子供に言い聞かせたりすることで、自己愛が未熟なまま成長してしまうことも原因と言われていますよ。

自己愛性パーソナリティ障害の診断基準

DSM-5に基づいて診断される

自己愛性パーソナリティ障害は、アメリカ精神医学会が定めるDSM-5に基づいて診断されます。詳細な診断基準は以下の通りです。

1.自分が重要であるという誇大な感覚(例:業績や才能を誇張する、十分な業績がないにもかかわらず優れていると認められることを期待する)。
2.限りない成功、権力、才気、美しさ、あるいは理想的な愛の空想にとらわれている。
3.自分が“特別”であり、独特であり、他の特別なまたは地位の高い人達(または団体)だけが理解しうる、または関係すべきだ、と信じている。
4.過剰な賛美を求める。
5.特権階級(つまり、特別有利な取り計らい、または自分が期待すれば相手が自動的に従うことを理由もなく期待する)。
6.対人関係で相手を不当に利用する(すなわち、自分自身の目的を達成するために他人を利用する)。
7.共感の欠如:他人の気持ちおよび欲求を認識しようとしない、またはそれに気づこうとしない。
8.しばしば他人に嫉妬する、または他人が自分に嫉妬していると思い込む。
9.尊大で傲慢な行動、または態度。
※出典:『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)

自己愛性パーソナリティ障害の治療

精神療法

精神療法には、カウンセリング療法や家族療法、集団精神療法などがあります。カウンセリング療法では、患者の内面的な葛藤や自己認識を深めて、自己愛のバランスを回復することを目的としています。自己愛のバランスを回復させながら、少しずつ社会に適応できるように促していきますよ。家族療法は、家族で問題に対してどう向き合っていくかを考える治療法です。この家族療法は、患者が未成年の場合に行われることが多い傾向です。集団精神療法は、同じ障害を持つ患者同士で話をしたり、共同作業をしたりする治療法です。同じ障害を持つ患者とコミュニケーションをとることで、自分の行動の改善につながりやすくなります。

薬物療法

自己愛性パーソナリティ障害の治療において、薬物療法は基本的に補助的な役割を果たします。自己愛性パーソナリティ障害そのものを直接治療するための薬は存在しません。しかし、併発する症状や問題を緩和するために薬が用いられています。例えば、患者が抑うつ状態や不安を伴う場合には、抗うつ薬や抗不安薬が処方されることがありますよ。また、衝動的な行動や攻撃性が強い場合には、気分安定薬や抗精神病薬が役立つこともあります。これらの薬物は、患者の日常生活でのストレスの軽減や感情のコントロールを支援して、精神療法を受けやすくするための環境を整える役割を果たします。

TMS治療

TMS治療(経頭蓋磁気刺激療法)は、自己愛性パーソナリティ障害に直接適用される治療法ではありません。しかし、併発する症状や関連する精神疾患に対して効果が期待される新しいアプローチです。TMS治療は、脳の特定の部位に磁気パルスを送ることで神経活動を調整し、精神的な不調を改善する方法です。この治療法は、患者が感情のコントロールを取り戻し、ストレスの軽減を図るための補助的な役割を果たします。ただし、適用には専門医の診断と慎重な判断が必要であり、精神療法などと組み合わせることでより効果的な結果が得られるとされていますよ。

自己愛性パーソナリティ障害の子供との接し方

特別扱いをしない

自己愛性パーソナリティ障害の子供には、特別扱いをしないことが重要です。子供が、自分は他者よりも優れており特別な存在でなければならないと感じてしまう環境は、自己愛を過剰に強化してしまい、問題を深刻化させる恐れがあります。そのため保育士は、過度に期待をかけたり、周囲と比較して持ち上げたりすることは避けましょう。他の子供と平等に接する対応が大切ですよ。具体的には、適切な努力をした場合には褒める言葉をかけ、失敗した場合でも受け入れる姿勢を示すことがポイントです。

第三者に相談する

自己愛性パーソナリティ障害の傾向が見られる子供に対応する際は、保育士一人で抱え込まず、第三者に相談することが重要です。子供の行動に不安を感じている場合は、保育施設の心理相談員や外部の専門機関に相談することで、適切な支援やアドバイスを受けることができますよ。また、保護者との連携も欠かせません。子供の行動について保護者と共有し、家庭と保育施設が一体となって対応することで、子供の成長を支える環境を整えることができます。

自己愛性パーソナリティ障害の子供と接する際の注意点

本人を責めない

自己愛性パーソナリティ障害の傾向を持つ子供に接する際は、本人を責めるような言葉や態度は避けることが大切です。自己愛性パーソナリティ障害の特徴を持つ子供は、自信があるように見えても内面では傷つきやすく、批判に対して過剰に敏感な傾向です。叱責や批判は、自己肯定感をさらに低下させたり、反発心を強めたりする可能性もあるため注意が必要ですよ。例えば、子供が問題行動を起こした場合には、その行動を冷静に指摘して、代わりにどう行動すれば良かったのかを一緒に考える姿勢で具体的に伝えることが効果的です。

保護者に対して断定的な言葉を使わない

自己愛性パーソナリティ障害の傾向がみられる子供でも、保護者に対して「あなたの子供は自己愛性パーソナリティ障害です」というような断定的な言葉は避けましょう。決めつけや原因を保護者の育児スタイルに直結させるような言葉は、保護者に不安や罪悪感を与えかねません。保護者との話し合いで、子供の行動や特徴を具体的に共有し、一緒にサポート方法を考えていくことが大切です。保護者との信頼関係を築き、子供の成長を共に支える姿勢が重要ですよ。

まとめ

自己愛性パーソナリティ障害について理解しよう

いかがでしたか。自己愛性パーソナリティ障害は、自己肯定感や他者との関係性に深く影響を及ぼす精神的特性を持っています。子供がこの特性を持つ場合、周囲の理解と支援が必要不可欠です。自己愛性パーソナリティ障害は単なるわがままや自信過剰ではなく、内面に不安や自分に対しての揺らぎを抱えている場合が多いです。そのため、子供を責めたり否定したりするのではなく、適切な方法で寄り添うことが大切ですよ。自己愛性パーソナリティ障害を正しく理解して子供の可能性を引き出す支援を行いながら、子供の成長を見守っていきましょう。