子どもが急に泣き出したり暴れたり、静止が効かないような行動をとる場面に直面し「どうしてこんなことをするのだろう?」と、戸惑ったことはありませんか?そんなときは、子どもの行動の背景にある目的に気づくことが大切です。機能的アセスメントは、こうした行動の意味を分析して、適切な対応や支援方法を見つける手法です。行動の理由を理解することで子どもの困りごとに気づきやすくなり、よりよい関わり方が見えてきますよ。今回の記事では、機能的アセスメントの基本的な考え方や、実際の活用例について詳しくご紹介します。子どもの行動に悩む保護者や支援者の方は、ぜひ参考にしてみてくださいね。
機能的アセスメントとは?
問題行動の理由を探るための評価方法

機能的アセスメントとは、問題行動の背景にある目的や原因を明らかにするための評価方法です。観察や面接、質問紙などを通じて、行動が起こる状況やその結果を分析し、行動が何を得るため、あるいは何を避けるために行われているのかを明らかにします。例えば、注目を引くため、課題を回避するため、感覚的な満足を得るためなど、行動には必ず何らかの理由があると考えられます。この評価を通じて問題行動を減らし、望ましい行動を促すための具体的な支援方法を立案します。
ABA(応用行動分析)の実践的手法のひとつ
機能的アセスメントは、問題行動の背景にある目的や原因を明らかにするための評価方法であり、ABA(応用行動分析)の実践的手法の1つです。観察やインタビュー、記録分析などを通じて、行動が生じる前の状況(先行事象)や行動そのもの、行動の直後に得られる結果(結果事象)を明確にします。そして、その行動がなぜ生じているのかを分析します。これにより、問題行動の代替となる望ましい行動を教えるための具体的な支援計画を立てることができますよ。科学的かつ個別的な支援が可能になるため、教育現場や福祉、医療など幅広い分野で活用されています。
ABA療育についての詳しい内容はこちらの記事を参考にしてみてください。
機能的アセスメントが使われる場面
発達障害のある子どもを支援する場面

発達障害のある子どもが学校や家庭で癇癪を起こしたり、指示に従えなかったりする場面では、機能的アセスメントが効果的に活用されます。例えば、授業中に大声を出す子どもがいたとします。この場合、大声を出す原因が「注目を引きたい」という目的であることが分かれば、子どもが適切な方法で注目を得られるように、教師は支援方法を計画できますよね。このように、行動の背景にある意図や機能を分析することで、単に行動を抑えるのではなく、子どものニーズに応じた前向きな支援が可能になります。結果として、子どもの自立や社会性の発達を促すことにもつながるでしょう。
学校現場や福祉施設

機能的アセスメントは、学校現場や福祉施設で問題行動の背景を理解し、適切な支援を行うために活用されますよ。例えば、学校では児童が授業中に離席する、他児に攻撃的な行動を示すなどの場面で、行動の目的を特定して環境調整や代替行動の指導に役立てられます。福祉施設では、利用者が大声を出す、自傷行為を行うなどの行動に対して、その原因や強化されている要因を分析し、個別に対応策を立てることができます。これにより、本人の生活の質を向上させ、支援者も一貫した対応が可能になります。
機能的アセスメントが評価する内容
行動のきっかけ
機能的アセスメントでは、問題行動のきっかけとなる先行事象を重要な評価対象とします。先行事象とは、行動が起こる直前の状況や出来事を指しますよ。時間帯や場所、周囲の人の言動、課題の難易度や環境の変化などが含まれます。例えば、児童がある教科の授業になると不適切行動を起こす場合、その教科に対する不安や課題の難しさがきっかけとなっている可能性が考えられます。このような先行事象を特定することで、行動が起こる前に予防的な支援や環境調整ができるようになり、行動自体の頻度や強度を減少させることが可能になります。問題行動のきっかけを正確に把握することは、効果的な介入計画を立てるうえで欠かせません。
行動そのものの特徴

機能的アセスメントでは、行動そのものの特徴を詳細に評価します。具体的には以下が挙げられます。
・持続時間
・強度
・発生する時間帯や状況
・行動が見られる相手や場所など
これらの情報を明確にすることで、単なる問題行動として捉えるのではなく、その行動がどのような条件で生じ、どのような結果を引き起こしているのかを科学的に把握できます。この評価により、行動の背景や目的を理解し、適切な支援方法や代替行動の指導につなげることが可能となりますよ。
行動の結果
機能的アセスメントにおいて行動の結果は非常に重要な評価項目です。これは、問題行動が起こった直後にどのような変化や反応があったかを指し、その行動がどのように強化されているかを理解するための鍵となります。例えば、子どもが泣くことで教師の注意を引いた場合、泣くという行動は注意を得るという結果によって強化されていると考えられます。このように行動の結果を分析することで、なぜその行動が繰り返されるのかを明らかにし、不適切な行動を減らして望ましい行動を増やすための支援計画を立てることができますよ。結果の分析により、適切な強化子を選ぶことも可能となり、効果的な介入が実現します。
機能的アセスメントで何が分かる?
問題行動の目的
機能的アセスメントを行うことで、問題行動の目的や理由を明らかにすることができます。多くの問題行動は偶発的に起こるのではなく、何らかの目的や機能をもって繰り返されています。例えば、注目を得るため、嫌な作業を回避するため、感覚刺激を得るためなどが一般的な目的です。このように、行動が果たしている役割を理解することで、単に表面的な行動を抑えるのではなく、その行動の代わりとなる適切な行動を教えることが可能になります。問題行動の目的を把握することは、効果的な支援や指導を計画する際に非常に役立つでしょう。
不適切な行動を別の形で置き換える方法

機能的アセスメントを行うことで、不適切な行動の背後にある目的や機能が明らかになります。この情報を基に、その行動の代わりとなる適切な行動(機能的に等価な行動)を教えることができますよ。例えば、授業中に叫んで注目を集める子どもには、手を挙げて話すという望ましい行動を教え、同じように注目を得られるように支援します。このように、行動の機能を維持しながら不適切な行動を減らし、社会的に受け入れられる方法へと置き換えるのです。本人のストレスも軽減され、周囲との関係も改善されるでしょう。
機能的アセスメントの手順
情報収集

機能的アセスメントの手順の中で最初に行われるのが情報収集です。情報収集では問題行動がいつ、どこで、誰といる時に起こるのか、またはどのような状況なら起こりにくいのかなど、行動のパターンを把握するための情報を集めます。主な方法には本人や支援者、保護者へのインタビュー、行動観察やアンケート、既存の記録の確認などがあります。特にABC分析(先行事象、行動、結果)に基づいた情報が重視され、どのような環境要因や結果が行動を引き起こし、維持しているのかを明らかにしますよ。正確で多角的な情報収集は、後の分析や支援計画の精度向上と効果的な対応につながります。
仮説の立案

機能的アセスメントの手順の中で重要な段階の1つが仮説の立案。これは、収集した観察データやインタビュー結果を基に、問題行動がどのような状況で起こり、どのような結果によって強化されているかを分析し、行動の機能(目的)を推測する作業です。例えば、特定の課題になると大声を出す児童について「課題回避のために行動している」といった仮説を立てます。この仮説は、その後の支援計画の基盤となるため、具体的かつ検証可能である必要があります。仮説に基づき、実際の支援や介入を行い、その効果を観察することで仮説の正しさを検証し、支援の精度を高めることが可能になります。
仮説の検証
機能的アセスメントの手順の中で重要なステップの1つが仮説の検証です。これは、観察やインタビューなどを参考に立てた「この行動は○○が目的で行われている」という仮説を、実際の場面での行動観察や環境調整を通じて確かめる段階です。例えば、子どもが課題を回避するために問題行動をとっているという仮説がある場合、課題の提示方法を変えるなどして行動の変化を確認しますよ。仮説が正しければ、環境調整により問題行動が減少し、代替行動が促されます。これにより、介入の方向性がより明確になり、効果的かつ個別性の高い支援計画の作成が可能となります。
機能的アセスメントの例
注目を引くために癇癪を起す子どもの場合

機能的アセスメントの例として、注目を引くために癇癪を起こす子どもが挙げられます。この場合の機能的アセスメントの例を挙げると、以下のようになります。
②癇癪という行動、そしてその後の結果(例:大人が注意を向ける)を記録・分析する
③癇癪を起こさなくても注目が得られるように、適切な方法(例:名前を呼ぶ、手を挙げる)を教え、それが成功した際にしっかり注目を与えるようにする
④同時に、癇癪には過剰に反応しないようにして行動の強化を防ぐ
このようにして、不適切な行動を適切な形に置き換える支援が可能になります。
苦手を避けるために自傷行為をする子どもの場合

苦手な課題を避けるために自傷行為を行う子どものケースも、機能的アセスメントの例として挙げられます。このような場合の機能的アセスメントの例を挙げると、以下のようになりますよ。
②先行事象(例:課題の提示)、行動(自傷)、結果(課題の中断や支援者の対応)を記録する
③分析の結果、自傷行為が課題から逃れる手段として機能していると判断された場合は仮説を立て、それを検証する
④課題の難易度を調整したり、課題への取り組みに対して適切な報酬を与えることで、問題行動を減らしながら取り組み行動を促す支援を行う
⑤代替行動として助けを求めるなどの適切な方法を教えることも重要
このように、機能的アセスメントを通じて根本的な支援が可能になります。
機能的アセスメントを行う専門家
行動分析士(BCBA)
行動分析士(BCBA)は、応用行動分析の専門的な訓練を受けた資格保持者であり、機能的アセスメントを通じて行動の背景にある原因を科学的に分析します。主に発達障害や知的障害をもつ人への支援に携わり、問題行動の目的や意味を明らかにした上で、適切な対応方法を検討して実施します。教育・医療・福祉などの現場で活躍し、個々のニーズに応じた支援計画を立てる重要な役割を担っていますよ。
行動分析についての詳しい内容はこちらの記事を参考にしてみてください。
臨床心理士

機能的アセスメントを行う専門家の1人に、臨床心理士が挙げられます。臨床心理士は、心理学的知見に基づき、行動の背景にある心理的要因や環境との関係を評価する専門家です。対象者の行動がどのような目的や動機によって引き起こされているのかを分析し、不適切な行動の要因を明らかにします。その上で、支援計画の立案や、行動をより適切な形へ導くための助言を行いますよ。特に、発達障害や情緒的課題を抱える子どもへの支援において重要な役割を果たします。
アセスメント後の支援方法は?
問題行動を減らすための環境調整
機能的アセスメントの結果を基にした支援では、問題行動の原因となる環境要因を特定し、それを改善する環境調整が重要です。例えば、騒音や刺激の多さが不安や癇癪を引き起こす場合には、静かな空間を確保するなどの配慮が効果的ですよ。また、過度な要求や待機時間の長さが原因である場合には、課題の量や難易度を調整したり、こまめに休憩を設けるなどの工夫も行われます。これにより、子どもが安心して過ごせる環境が整い、問題行動の頻度や強度を減少させることが期待されます。
まとめ
機能的アセスメントで行動の目的を明らかにしよう

いかがでしたか。今回は、機能的アセスメントの考え方や使われる場面、手順や活用方法を紹介しました。子どもの行動には必ず理由があり、それを正しく理解することが支援の第一歩となります。行動を一方的に叱るのではなく、背景にある困りごとに気づき環境や関わり方を工夫することで、子どもも周囲も安心して過ごせるようになります。ぜひ本記事を参考に、子どもに合った支援のヒントを見つけてみてくださいね。