皆さんは強迫性障害という病気をご存知ですか?強迫性障害は、大人だけではなく子どもでも発症する心の病気です。大きな不安や苦しみを伴う病気ですが、子どもの場合は周囲の大人が気づきにくく、「ただのこだわり」や「考えすぎ」と誤解されてしまうことが少なくありません。そこで、今回は子どもの強迫性障害の主な症状や原因、治療方法などを詳しく解説していきます。この記事を通じて、子どもの強迫性障害への理解を深め、早期発見や適切な対応につなげていきましょう。
子どもの強迫性障害(強迫症)とはどんな病気?
強迫観念と強迫行為を繰り返す病気

子どもの強迫性障害とは、頭の中で何度も同じ考えが浮かんできて離れなくなる強迫観念と、その不安を打ち消すために特定の行動を繰り返してしまう強迫行為が特徴の病気です。例えば、下記のような行動が当てはまりますよ。
・鍵をかけたかどうかが不安で何度も確認してしまう
・誰かに危害を加えたかもしれないという不安から周囲の人に何度も確認してしまう
といった行動が見られます。これらの行動は、一時的には不安を和らげるかもしれません。しかし、本質的な不安は増大し、日常生活に大きな支障をきたしてしまう可能性があります。
強迫性障害の症状は?
手の汚れや人への加害などに強い不安を抱く

強迫性障害の1つ目の症状として、手の汚れや人への加害などに強い不安を抱くことが挙げられます。特に多いのが、手の汚れに対する強い不安や家の戸締まりどを何度も確認してしまうなどの行動です。例えば、少し物に触れただけでも「汚れたかもしれない」という強迫観念にとらわれて、何度も念入りに手を洗わないと気が済まなくなることがあります。その他にも、「知らない間に誰かを傷つけたかもしれない」と異常に不安になってしまい、加害をしていないか身近な人に聞いたりニュースを見たり、頻繁に確認をする症状もあります。その確認回数は常識的な範囲を超え、日常生活に支障をきたすほど頻繁になることも多いです。これらの症状は、
・加害恐怖
・確認行為
と言われていますよ。
数字や物の配置に強いこだわりがでる
強迫性障害の2つ目の症状として、特定の数字や物の配置に対する強いこだわりが現れることが挙げられます。この症状は、自分の中で「こうあるべき」という強いルールがあり、そのルール通りに物事が収まらないと強い不安や不快感を感じてしまいます。例えば、特定の数字に強い意味を持たせてしまい、その数字の回数で何かを行わないと気が済みません。 また、物の配置が少しでもずれていると不快感を覚え、正しい位置になるまで何度も修正をします。 これらの症状は、儀式行為と言われていますよ。
繰り返す行動をやめられず苦しむ患者が多い

強迫性障害を発症している人の多くは、頭の中で繰り返し湧き上がってくる不安から逃れるために行う強迫行為を、「無意味だ」と自覚しながらもやめられないという苦しみを抱えています。手を洗ったり鍵を何度も確認したりといった行動に、理性的な部分では「もう十分すぎるほど手を洗った」「鍵はきちんと閉めたはずだ」と理解している方も多いのです。しかし、強い不安感からくる強迫行為に抗うことができません。やめたいのにやめられないという症状は、日常生活における様々な活動を妨げ、孤立感を深めてしまうこともあります。
強迫性障害の原因は?
脳内のセロトニン系に異常がある

強迫性障害の1つ目の原因は、脳内のセロトニン系に異常があることです。強迫性障害の発症には、様々な要因が複雑に絡み合っていると考えられています。その中でも有力な原因の一つとして挙げられるのが、脳内の神経伝達物質であるセロトニン系の機能異常です。研究によると、強迫性障害の患者の脳内では、このセロトニンを細胞内に取り込むたんぱく質の数に異常が見られていることがわかりました。具体的には、神経細胞間でセロトニンが適切に伝達されない、あるいはセロトニンを受け取る受容体の機能に問題がある可能性などが指摘されています。
参考:https://www.qst.go.jp/site/qms/1675.html
遺伝的な傾向や家庭環境などのストレス
強迫性障害の2つ目の原因は、遺伝的な傾向や家庭環境などのストレスです。強迫性障害を持つ人の親族に、同じ病気や不安障害を持つ人がいる割合が高いことが複数の研究で示されています。研究によると、強迫性障害を発症している人は第一親族に強迫性障害がいる確率が、発症していない人の2倍になるそうです。また、家庭環境におけるストレスも強迫性障害の発症に影響を与える可能性がありますよ。例えば、親からの過度な期待や干渉、厳格すぎるしつけ、虐待やネグレクトといった経験は、子どもの脳精神に大きな負担を与え、不安を感じやすい性格に繋がる可能性があります。
保護者の性格やしつけも原因の1つ

強迫性障害の3つ目の原因は、保護者の性格やしつけです。保護者の性格や教育スタイルは、子どもの精神の発達に大きな影響を与えます。例えば、完璧主義な保護者のもとで育ったり厳しいしつけを受けたりした場合、子どもが過度な責任感や不安感を感じやすくなる可能性がありますよ。また、親御さん自身に強迫性障害がある場合、その行動が子どもにとって真似をする対象となり、同様の行動を学習してしまうことも考えられます。具体的には、過度に清潔を求める保護者の姿を見て育った子どもが潔癖傾向な価値観を持つようになる、といった例が挙げられます。
子どもの強迫性障害は何歳頃から発症する?
小中学生の時期に発症するケースが多い
子どもの強迫性障害は小中学生の時期に発症するケースが多いとされています。なぜなら、この時期は、精神的な成長が大きく進む時期であり、学校生活における友人との関わりや学業など、ストレスを受けやすい時期でもあるからです。学業への重圧や集団生活での悩み、将来に対する漠然とした不安などが、子どもの精神に負荷を与えて脅迫症状が表面化すると考えられていますよ。小学校や中学校の頃に現れる強迫観念や強迫行為は様々です。例えば、
・自分の物を決まった場所に置かないと落ち着かない
・宿題や持ち物の確認を繰り返してしまう
といった行動が見られます。
参考:十三メンタルクリニック
幼児期から兆候が見られても見逃されやすい

幼児期は、発達の過程で様々な行動が見られる時期です。そのため、強迫性障害の兆候が見られても、成長の過程でよくあることだと判断され、見逃されやすい傾向ですよ。例えば、
・手を汚すことを極端に嫌がる
・同じ質問を何度も繰り返す
などの行動は、強迫性障害の初期症状である可能性も考えられます。しかし、幼児期の場合は単なる「わがまま」や「神経質な性格」と捉えられてしまい、強迫性障害であると気づかれないことがあるのです。
発達障害や精神疾患との関係性は?
発達障害の特性の強いこだわりと症状が似ている
発達障害や精神疾患との関係性として、発達障害の特性の強いこだわりと症状が似ていることが挙げられます。発達障害であるASDに見られる強いこだわりは、時に強迫性障害の症状と類似しているため、鑑別が難しい場合があります。どちらも特定の行動や思考に固執し、変化を嫌うといった特徴を示すことがありますが、その動機や背景には違いがあります。
強迫性障害:不安や恐怖を軽減するための対処行動
不安障害やうつ病などと併発しているケースもある

発達障害や精神疾患との関係性として、不安障害やうつ病など、他の病気と併発しているケースも挙げられます。強迫性障害は大きな不安や精神的な苦痛を伴う病気です。その症状がストレスとなり、結果として不安障害を引き起こしたり、精神の消耗からうつ病へと繋がったりすることがあるのです。さらに、強迫性障害の症状によって普段の生活に支障が出ると「なぜ自分だけがこんなに苦しいのか」と、ネガティブな感情を抱きやすく、うつ病の発症を促すとも考えられていますよ。
子どもの強迫性障害の診断
小児精神科や心療内科での問診と行動観察が中心

子どもの強迫性障害の診断は、小児精神科や心療内科での問診と行動観察が中心となります。診断の基本は、医師による丁寧な問診と日常生活における行動の観察です。本人が感じている不安や繰り返し行ってしまう行動の内容、その頻度や状況などを詳しく聞き取り、生活への影響の程度を確認します。また、家族からの情報提供も重要で、家庭や学校で見られる行動パターンを総合的に評価しますよ。必要に応じて心理検査や質問票を併用し、他の疾患との鑑別も慎重に行われます。
家庭や学校での行動も重要な診断材料
強迫性障害の診断は、家庭や学校での行動も重要な診断材料です。子どもの場合は、家庭や学校で同じ確認行動を繰り返していたり、特定の順序やルールに強いこだわりを見せたりすることがあります。なぜなら、これらの行動は、本人が日常生活において強い不安を感じているサインだからです。周囲の大人がその変化に気づくことが、強迫性障害の早期発見と早期支援につながりますよ。医師は、こうした家庭や学校からの情報も重視したうえで、総合的に判断をします。
DSM-5などの国際的な基準も使われる

強迫性障害の診断は、DSM-5などの国際的な基準も使われます。DSM-5では、繰り返し思い浮かぶ不安や、その不安を和らげるための反復的な行動が、日常生活に支障をきたしているかどうかが重要な判断ポイントになります。DSM-5では、以下のどちらかを満たすと強迫性障害であると判断していますよ。
・社会的、職業的、その他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている
この基準のように、症状の頻度や継続期間、生活への影響の程度を評価することで客観的かつ専門的な診断が可能となります。
子どもの強迫性障害の治療方法
薬の処方による治療

強迫性障害の1つ目の治療方法は、薬の処方による治療です。主に選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)と呼ばれる薬が使用されます。脳内の神経伝達物質であるセロトニンのバランスを整えることで、不安や強迫的な思考、行動を緩和することができます。例えば、
・パロキセチン
・セルトラリン
などの成分が入った薬が用いられますよ。薬による治療は、症状の程度が中等度以上で日常生活に大きな支障がある場合に有効とされています。個々の症状に応じて薬の種類や量を調整しながら、医師の指導のもとで継続的に行われます。
認知行動療法による治療

強迫性障害の2つ目の治療方法は、認知行動療法による治療です。認知行動療法では、特に曝露反応妨害法という治療法が効果的とされており、よく用いられていますよ。曝露反応妨害法は、まず不安を感じる状況を不安度に合わせてリストアップします。次に、不安リストの最下位の状況から患者さんが意図的に立ち向かい、強迫行為をせずに我慢をするトレーニングを行います。そして、不安が自然と軽減していくことを経験することで、強迫行為への依存を減らしていく治療法です。このプロセスにより、不安と強迫行為の悪循環を断ち切ることが期待できます。
家族療法や学校との連携による治療
強迫性障害の3つ目の治療方法は、家族療法や学校との連携による治療です。特に、低年齢の子どもや思春期を迎えた子どもの場合、家族や学校が強迫性障害に対して正しく理解して協力することが必要不可欠です。家族療法では家族が、子どもの強迫行為を過度に手助けしたり、しかりつけたりしないように、適切な対応方法を学びます。また、学校と連携を取り、学習や生活面でも安心して過ごせる環境を整備します。本人を取り巻く環境全体で支えることが、回復への大切な一歩となりますよ。
まとめ
子どもの強迫性障害は周りの理解と支援が回復の第一歩!
いかがでしたか。今回は、子どもの強迫性障害の主な症状や診断方法、治療の選択肢などを詳しく紹介しました。子どもの強迫性障害は、本人の意志とは関係なく繰り返される思考や行動に苦しむ心の病気です。早期の発見と適切な支援が非常に重要ですよ。薬物療法や認知行動療法に加え、家族の理解や学校との連携も、治療の一環として欠かせません。今回の記事で紹介したような症状が、継続的に子どもに見られる場合には、早めに専門機関に相談してみましょう。子どもの強迫性障害は周りの理解と支援が回復の第一歩ですよ。