相貌失認とは?症状や日常での困りごとを解説【見え方・原因・分類・診断】

子どもが「友達の顔を覚えられない」と言っている…。このような場合、相貌失認かもしれません。相貌失認とは、相手の顔を見ても認識できない、覚えられないという症状のことです。この記事では、相貌失認の分類や症状、対処法について詳しく解説していきます。「もしかしたら相貌失認かもしれない」「相貌失認ってどんな症状なの?」と、このような疑問や不安がある方は、是非この記事を参考にしてみてくださいね。

相貌失認とは

人の顔を認識することができない脳の障害

相貌失認とは、人の顔を認識することが難しくなる脳の障害です。この障害を持つ人は、家族や友人の顔を見ても誰か分からなかったり、初対面の人と再会しても覚えていなかったりします。相貌失認は視力に問題があるわけではなく、顔以外の特徴や声で相手を識別することが多いです。原因は脳の損傷や先天的な要因とされており、日常生活に影響を与えることもありますよ。周囲の理解とサポートが重要であり、顔以外の情報を活用する工夫が役立ちます。

相貌失認の分類

先天性相貌失認

相貌失認は、先天性相貌失認と後天性相貌失認の2つに分類されます。先天性相貌失認は、生まれつき顔の認識が苦手な状態で、胎児期の脳形成で顔を素早く認識する機能がうまく形成されないことが原因と考えられています。この症状は約100人に1人程と言われており、自分が相貌失認であることに気付かない場合も多いです。また、視力には問題がないため見逃されがちです。現在、先天性相貌失認の治療は確立されていません。しかし、適切なトレーニングを行った場合は、相貌失認の症状をカバーしながら生活をすることが可能になります。

後天性相貌失認

後天性相貌失認とは、事故や怪我、脳の病気などにより、顔を認識する脳の機能が損傷を受けることによって起こる障害です。後天性相貌失認の原因として、次のような状態があげられます。

・動脈硬化
・脳梗塞
・脳出血
・脳腫瘍
・加齢

それまで問題なく顔を識別できていた人が、突然周囲の人の顔が識別できなくなるため、日常生活に大きな混乱を招くことがあります。しかし、脳の損傷による後天的な障害のため、手術やリハビリなどの専門的な治療によって改善する可能性がありますよ。

相貌失認の症状

【軽度】顔の識別に時間がかかる

相貌失認の軽度の症状では、他者の顔の識別に時間がかかる傾向があげられます。軽度は、他者の顔を完全に認識できないわけではありません。例えば、久しぶりに会う人の顔をすぐには思い出せなくても、会話中の声や話し方、服装などの情報を手がかりにして誰なのかを判断することができます。日常生活に大きな支障が出にくい傾向ですが、不安や戸惑いを感じて困ることもあります。そのため、身近な人からの理解があると安心ですね。軽度の相貌失認は、遺伝的な要因や発達障害などによって脳の一部が正常に機能しなかった際に起こると言われています。

【中度】他者や有名人の顔を識別できない

相貌失認の中度の症状では、家族や親しい友人の顔を見分けることができても、他者や有名人の顔を記憶したり識別することが難しくなります。また、顔の表情から相手の感情や気持ちを読み取ることも困難になります。例えば、相手が怒っているのか笑っているのか、表情だけでは判断ができません。このような症状から、初対面の人と親しくなりたいときや、知り合いと久しぶりに再会したときにスムーズなコミュニケーションが取れず困ってしまいますよ。中度の相貌失認は、先天的に脳の一部が発達しなかった場合や、後天的に脳の一部が損傷された場合に起こると言われています。

【重度】自分の顔を認識できない

相貌失認の症状が重度になると、家族や友人の顔だけでなく、自分自身の顔も認識することができません。例えば、鏡に映った自分の顔を見ても、誰の顔なのかがわからず戸惑ってしまったり、写真を見ても自分だと気づけなかったりすることがあります。また、学校などで毎日顔を合わせる人達がいる場所でも、誰が誰なのかがわからないため会話に参加しづらい傾向です。これは、顔を認識する脳の働きに多大な障害が発生していることが考えられます。そのため、服装や声、話し方など、顔以外の特徴を手がかりに自分や他者を識別する工夫が必要になります。重度の相貌失認は、脳損傷や脳疾患により脳が大きく損傷された場合に起こると言われていますよ。

相貌失認かどうかを調べるには?

見たことがある人の顔を覚えてられるか

相貌失認の診断では、以下の相貌認知課題と呼ばれる3つの項目を調べます。

・見たことがある人の顔を覚えていられるか
・会ったことがない人の顔を見分けられるか
・顔から性別や年齢を識別できるか

1つ目は、見たことがある人の顔を覚えていられるかです。例えば家族や友人、学校のクラスメイトなど、日常的に接している人物の顔を写真で見せて、誰なのかを答えてもらう検査が行われますよ。また、名前は答えられなくても、有名人の写真を見て「〇〇している人」などと答えることができれば覚えているとみなされます。この課題では、正答率や思い出すまでの時間を測ります。

会ったことがない人の顔を見分けられるか

2つ目は、会ったことがない人の顔を見分けられるかです。この課題では、2枚の写真を見せて同じ人物かどうかを答えてもらいます。また、複数の写真の中から同一人物の写真を選択してもらいます。相貌失認のある人は、顔の細かな違いを記憶できないため、顔ごとの識別ができません。そのため、顔の見分けに関して「どれも同じに見える」と感じたり、特徴的な部分を覚えていてもそれを他の顔と区別することが難しくなったりするのです。こうした課題を通じて、見慣れない顔の識別能力の程度を客観的に評価しますよ。この課題でも、正答率や答えるまでにかかる時間を測ります。

顔から性別や年齢を識別できるか

3つ目は、顔から性別や年齢を識別できるかです。この課題では2枚の写真を見せて、どちらが男性なのか、どちらが若い人なのかを答えてもらいます。相貌失認ではない人の場合、顔の輪郭や目鼻立ちの特徴から、ある程度の年齢や性別を推測することができます。しかし、相貌失認のある人はこれらの情報を得ても、年齢や性別を推測できません。特に、顔の全体的な印象ではなく細かなパーツに注目しがちなため、年齢や性別の判断に誤りが生じますよ。この課題においても、正答率や答えるまでにかかる時間を測ります。

脳神経外科がある病院を受診する

相貌失認かどうかの診断をするために、脳神経外科がある病院を受診するという選択肢もあります。相貌失認の主な症状は、相手の顔を見てもそれが誰なのかが認識できないことです。その原因として、脳の損傷や発達に関わる異常が関係している可能性があります。脳神経外科では、MRIやCTなどの画像検査を通じて、視覚や記憶に関係する脳の部位に異常がないかを詳しく調べることができますよ。また、専門医による問診や神経心理学的検査も行われるため、より的確な診断が期待できます。

相貌失認が原因で日常的に困ることとは?

友人や家族の顔を認識できない

相貌失認が原因で日常的に困る1つ目の場面は、友人や家族の顔を認識できないということです。例えば、街中や学校、職場などで知り合いに声をかけられても、その人の顔だけでは誰なのかが判断できず、会話の中でようやく相手に気づくというケースがあります。この場合、本人に全く悪気がなくても、相手から「無視された」「なんだかよそよそしいな」と、誤解されることが少なくありません。こうした誤解が原因で、人間関係に悩みを抱える可能性もありますよ。

会ったことのある人の顔を忘れてしまう

相貌失認が原因で日常的に困る2つ目の場面は、会ったことのある人の顔を忘れてしまうことです。例えば、何度も会って話をした相手であっても、次に会ったときにその人が誰なのかが思い出せず、まるで初対面のような対応をとってしまうことがあります。このような状況は、相手に「何度も会っているのに覚えてくれない」と思われがちです。その結果、人間関係において誤解や信頼関係の欠如につながるかもしれません。特に仕事や学校など、人との関わりが多い場面では困ることが多く、本人も強いストレスを感じやすくなります。

人が多い場所で顔の識別ができずに不安になる

相貌失認が原因で日常的に困る3つ目の場面は、人が多い場所で顔の識別ができずに不安になることです。例えば、駅やショッピングモール、学校行事など大勢の人が集まる場面では、知っている人が目の前にいても顔だけでは見分けがつかず、声をかけることが困難です。また、誰かに話しかけられても誰なのか判断することも難しくなります。このような状況が続くと「知っている人を見落として失礼になるのではないか」と緊張し、不安を抱えるようになってしまいますよ。その結果、人混みを避けるようになったり、社会的な活動から距離を取ったりするなど、生活の幅が狭まってしまうこともあります。

相手の気持ちがわからない

相貌失認が原因で日常的に困る4つ目の場面は、相手の気持ちがわからないことです。相貌失認がない人は日常会話をする中で、相手の表情から怒りや喜び、悲しみといった感情を無意識に読み取っています。しかし、相貌失認がある人は相手の表情の微妙な変化を識別することが困難です。そのため、相手が不機嫌だったり困っていたりしても気づかず、無神経な言動をしてしまい悪い印象を与えてしまうことがありますよ。こうした誤解や意思のすれ違いが積み重なると、人間関係に悪影響を及ぼす可能性が高まります。

認知療法やリハビリを受ける

相貌失認の1つ目の対処法は、認知療法やリハビリを受けることです。相貌失認は根本的に治療が難しい場合もありますが、脳の働きを補うためのトレーニングを通じて、日常生活での困りごとを軽減することが可能です。具体的には次のようなトレーニングが行われますよ。

・顔のパーツや表情を学習するためのパソコンを使用したプログラム
・身近な人や有名人の顔を見て名前などを思い出すための訓練
・顔以外の情報で人を識別する方法を学ぶ
・脳の顔を把握するための処理システムを強化するための訓練

認識の補助を見つける

相貌失認の2つ目の対処法は、認識の補助を見つけることです。例えば、以下のような特徴に注目して人物を認識する方法がありますよ。

・相手の声
・髪型
・眼鏡の有無
・服装
・歩き方
・持ち物など

また、ほかにも予定表や連絡先リストに「いつ・どこで会った誰か」を詳細に記録しておくことで、状況から相手を推測することもできます。最近では、スマートフォンの写真機能を使って名前付きの人物フォルダを作成し、相手の特徴をメモと一緒に残しておくといった工夫も効果的ですよ。

心理的サポートを得る

相貌失認の3つ目の対処法は、心理的サポートを得ることです。相貌失認によって日常生活で人間関係に支障をきたしたり、相手の反応がわからずに落ち込んだりすることが続くと、強いストレスや孤独感、不安を感じるようになります。そうした心の負担を軽減するためには、臨床心理士などの専門家によるカウンセリングを受けることが効果的ですよ。自分が感じている不安や困りごとを安心して話せる環境があることで、自己肯定感やポジティブな思考を保つことができるでしょう。

まとめ

相貌失認の人は他者からの理解と支援が必要

いかがでしたか。今回は、相貌失認について詳しく解説していきました。相貌失認とは、相手の顔や表情を認識できない状態を指します。自分が相貌失認だと気づいている人もいますが、気づかずに苦しんでいる人もいますよ。社会生活を送るうえで、目の前の人が誰なのかを認識する必要がある場面は多々あります。そのため、顔を覚えられない相貌失認の方は、年齢を問わずに生き辛さを感じてしまうことが多いです。この記事を参考に、相貌失認についての知識を身に付けてみてくださいね。もし身近に相貌失認と同じような症状で悩みを抱えている人がいた場合、助けになるかもしれません。