みなさんは、応用行動分析やABAという言葉を知っていますか?聞いたことがなかったり、聞いたことはあるけれどどんなものかはわからなかったりする方も多くいることでしょう。今回の記事では、そんな応用行動分析がテーマです。定義や考え方から、療育での用い方なども紹介していきます。親御さんはもちろん、子供と接する機会が多い保育士の方もぜひ本記事を読んで、応用行動分析について知ってくださいね。
行動分析の考え方
行動から人の心を理解しようという考え方
行動分析学は、読んで字の如く、人間や動物の行動を分析する学問で、対象は人間や生き物ができるすべての行動となっています。行動分析学では、行動の原因は心ではなく、取り巻く外部要因が関わっているという前提のもとに分析していくようですね。それまでの心理学では、行動を起こす理由を人の心や精神に求めていたので、外部要因との交流を理由とした行動分析は非常に画期的だったことでしょう。今回の記事のテーマでもある応用行動分析の土台ともいえる学問が行動分析学であると言えます。
応用行動分析とは?
行動分析で得た知識を実社会に応用したもの
応用行動分析は、上で述べた行動分析によって得た知識や知見を、実社会へと応用していくものです。社会の中で問題となっている行動などに対して、行動分析学のアプローチを用いた解決を目指すのが応用行動分析というわけですね。行動分析学が進歩する中で蓄積された膨大な知識は、教育や福祉、スポーツなど多くの分野で活用されています。さまざまな領域で活用されている応用行動分析ですが、今回は教育や療育の領域を中心に紹介していきます。
ABAとも呼ばれる療育に用いる心理技法の一つ
応用行動分析はABA(Applied Behavior Analysis)と略されることもあり、療育に用いられる心理技法の一つでもあります。言語能力や社会性が向上したり、小学校の普通学級への進学率が上昇したりと、着実に効果を示し続けている応用行動分析。先進国の中には、応用行動分析を用いた療育は保険適用にもなっており、一般的な手法となっていることがわかりますね。自閉症の子供に対する早期療育として有効な手段であると普及した応用行動分析ですが、現在では障害を持った方への支援の手法としても用いられています。
応用行動分析の歴史
B・F・スキナーが応用行動分析の祖
応用行動分析の祖とされている人物が、B・F・スキナーという人物で、彼はアメリカ合衆国出身の心理学者で当時非常に影響力が大きかったようですね。スキナー箱を用いた実験を聞いたことがある方もいるかもしれませんが、彼はオペレント条件付けという理論を用いて研究をこなっていました。オペ練と条件付けとは、動物の行動に対して報酬を得たり、不快な刺激を得たりすることで、行動が増えたり減ったりするというものです。スキナーが研究に取り組んだオペレント条件付けや応用行動分析は現在も幅広い分野で用いられていますね。
応用行動分析を用いた療育の始まり
応用行動分析を療育に用いるきっかけはなんだったのでしょうか。子供の成長度合いや発達具合を不安に思う保護者が多くいることでしょう。子供に限らず、人の行動の理由を突き止めるために研究が進んでいた中で、自閉症等の特徴もわかるようになってきました。それによって、子供たちの支援方法や問題行動を減らすための方法として応用行動分析が注目されたわけですね。言葉での注意などのさまざまな工夫を経て、応用行動分析に辿り着いたわけです。
応用行動分析の基本的な考え方は?
望ましい行動を増やし望ましくない行動を減らす
応用行動分析の基本的な考え方は、シンプルですが好ましい行動を増やして好ましくない行動を減らすことと言えます。良い行動や望ましい行動をとった後に、自分にとって良いことがあると徐々にそういった良い行動を繰り返していく。良くない行動や望ましくない行動をとった後に、自分にとっても良くないことがあると徐々にそういったよくない行動をしなくなっていくという具合ですね。子供たちの行動を分析し、行動ごとに条件をつけるという方法で子供たちの行動を矯正していくので、子供たちにとってもわかりやすいですね。
療育における応用行動分析の手法例は?
ABC分析
応用行動分析を用いた療育において、はじめに行うことは子供たちの行動を分析することです。この分析の手法として挙げられるのが、ABC分析と呼ばれるものですね。ABC分析は先行事象(A:Antecendent)、行動(B:Behavior)、結果(C:Consequence)の頭文字を並べたものです。先行事象は対象の行動が起きる前の状況や周囲の環境などを指し、行動は対象行動を指し、結果では行動の後に何を得たり、何が起きたりしたかを指しています。具体例として、欲しいものをおねだりして泣く子供を考えましょう。好きなお菓子を見つけたことを先行事象だとすると、子供は大声で泣くという行動をしたことになります。その結果がお菓子を買ってもらえるといったものです。この流れによって、子供は大声で泣くことで好きなお菓子を手に入れられると学んでいるということがわかるわけですね。
応用行動分析を用いた療育の方法
強化
応用行動分析を用いた療育の手法として、強化が挙げられるでしょう。これは子供が良い行動や望ましい行動をした場合に、その行動を自発的に繰り返し行うように教えることです。良い行動を強化するためには、行動をとったことによって本人が何かしらのメリットや恩恵を受けることが必要になります。そのメリットや恩恵を強化子と言います。強化子は、ご褒美などのものに限らず、本人が求めているもの全般を指しますね。褒められることが強化子となる子もいれば、抱っこしてもらうことが強化しとなる子もいることでしょう。その子供にとって強化子がどのようなものなのか、しっかりと見極める必要がありますね。
消去
強化と対照的なものとして、消去という応用行動分析を用いた療育の手法もあります。これは子供が良くない行動や、望ましくない行動をした際に、その行動を減らすように教えることですね。良くない行動を消去するために、叱る方も多くいますがこの消去において罰を与える必要はありません。どちらかというと、子供が望んでいる結果にならないようにするということが重要と言えるでしょう。例えば、構って欲しくて何か良くない行動をしている子供に対して過度に反応しないようにするといった形ですね。こういったケースで叱ってしまうと、構ってもらえたと感じて子供が喜ぶ結果になってしまうでしょう。子供たちが何を求めているかを間違えると強化子になってしまうこともあるので、注意も必要ですね。
療育における応用行動分析の効果は?
問題行動を減らすことができる
療育において応用行動分析を用いるメリットとして、問題行動を減らせるということが挙げられます。上でも述べましたが、応用行動分析を用いることで望ましくない行動を消去することが可能となります。応用行動分析をもとに、子供たちの行動を分析することで、それを引き起こしている原因も発見できることでしょう。しっかりと見極めることができれば消去もできますし、逆にそれを活かして望ましい行動を強化することもできるでしょう。
こだわりを減らすことができる
療育において応用行動分析を用いるメリットとして、こだわりを減らせるということが挙げられるでしょう。高機能自閉症の記事でも触れましたが、高機能自閉症の子供には限定的な反復行動が多かったり、こだわりが強かったりする傾向があります。応用行動分析を用いることで、新たな行動を強化することで、できることが増えて興味が分散されることもあるでしょう。また、反復しがちな行動を消去することで、行動の幅が広がることにもつながるでしょう。
コミュニケーション能力が高まる
療育において応用行動分析を用いるメリットとして、子供のコミュニケーション力を育むこともできることも挙げられますね。発達障害を抱えた子供たちは、コミュニケーションが苦手である傾向があったり、言語能力が低いことがあったりします。コミュニケーションを取ることによって、強化子が与えられるようにするとそういった特徴を改善するためのアプローチになるでしょう。またコミュニケーションを多く取ることによって、言葉を用いる回数が増えて言語能力を育てることにもつがることでしょう。療育の対象である子供たちに合ったアプローチが取れるという点が、応用行動分析が療育に活用される理由と言えますね。
消去バーストとは?
消去バーストがあることを意識しよう
非常に有益で便利な応用行動分析ですが、注意点もあります。それが消去バーストと呼ばれる、一時的に行動が悪化するという事象です。上でも述べたように、応用行動分析を用いた療育において、良くない行動や望ましくない行動を減らすために消去という方法を用います。その際に、泣く強さが増したり、暴れるようになったりすることが消去バーストの例として挙げられます。泣く強さが強まったことで、心配して構ってしまうと、強化してしまうという結果となるでしょう。以前よりも行動が激しくなってしまうこともあり得るので、注意が必要ですね。
応用行動分析を学ぶ上で有効な資格
多くの有効な認定資格がある
応用行動分析は発達障害を抱えた子供たちと接するセラピストも用いており、ABAセラピストという仕事もあるほどです。ABAセラピストという職業があることも影響して、応用行動分析を学ぶための資格も数多く存在しています。ABA国際資格もその一つですね。ABA国際資格はアメリカの行動分析士認定協会が認定している資格で行動分析士・博士、行動分析士・修士、準行動分析士、登録行動テクニシャンの4段階に分かれています。自分の能力に合わせて、取得するレベルを変えられるのが特徴ですね。一方で、アメリカの資格であり日本語での試験がないので、ハードルが高いことも特徴と言えるでしょう。認定ABAセラピストというTogether合同会社が認定している資格も挙げられます。ABA国際資格における登録行動テクニシャンと同程度の難易度とされています。日本語での試験であるということも良い点ですね。加えて資格認定された後、Together合同会社が提携している事業所からサポートも受けられるという点もメリットに挙げられます。
まとめ
現場でも応用行動分析を療育に利用してみよう
いかがだったでしょうか。今回は応用行動分析について紹介しました。応用行動分析とは何かに加えて、療育への応用方法やメリットなどにも触れましたね。保護者や保育士など、子供と接する機会が多い方たちには、子供たちが何を思って行動をしているのか分からなくなるることもあるでしょう。それを理由に不安を抱えることもありますよね。今回紹介した応用行動分析の知識を用いて、子どもと接してみると不安が軽くなったり、見え方が変わるかもしれませんね。