みなさんの身近に、ちょっとした音で耳を塞いでしまう子供やシャワーを苦手に感じている子供はいませんか?実はそれ、感覚特性によって特定の感覚を苦痛に感じていることが原因かもしれません。感覚特性は、子供の行動を理解するうえで大きなヒントになりやすい視点の1つです。子供は自覚しにくい場合があるので、大人が気付いて対応できるようにすることが望ましいですね。今回の記事では、そんな大人がよく理解すべき子供の感覚特性について重要な事項をまとめています。ぜひ特性の種類や対応の仕方を知って、子供達の生活を快適なものに変えていきましょう!
感覚特性とは?
脳で認識した感覚情報の感じ方の違い
そもそも感覚とは一体何なのでしょうか?よくイメージされるのは、視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚といった五感と呼ばれる5種類の感覚です。五感は身体の外から刺激を感じ取るものですよね。一方で、身体の内から刺激を感じ取る前庭覚や固有感覚と呼ばれる感覚も存在します。感覚特性とは、このような身体の内外からの刺激を受け取った後、最終的に脳でどのように認識するかによって生じる感じ方の違いのことです。人それぞれ個性があるものだと認識しましょう。周囲の子供達と異なるからといって不正解だと判断せずに、前向きに対処の方法を考えることが重要ですよ!
発達障害のある子供が苦痛に感じやすい
苦手な音やお気に入りの香り。このような感覚の好き嫌いや得意不得意は、誰しも少なからず持っていることでしょう。しかしながら、これらの感覚を、生活に支障が出るほど苦痛に感じやすいという人も一定数存在します。特にも、自閉症スペクトラム障害(ASD)のある方には、耐え難いほどの苦痛やストレスを感じるというケースが多く見られるようです。身近に発達障害を持つ子供がいる場合には、感覚特性を十分に理解するよう心掛けると良いでしょう!
感覚過敏・感覚鈍麻などがある
感覚特性といっても、さまざまな種類があります。中でも感覚過敏や感覚鈍麻などは、自閉症スペクトラム障害(ASD)のある子供達の間でも多く見られる特性です。刺激に対する反応が過剰、もしくは反対に著しく鈍い。このような特性が日常生活に支障をきたすほどの苦痛となって表れた場合に、それらは感覚過敏・感覚鈍麻という感覚特性にそれぞれ該当します。また他にも、刺激のある環境を避けようとする感覚回避や、反対に強い刺激を求めてしまう感覚探求というパターンも存在します。さまざまな感覚特性の種類を知って、特性に応じた対応の仕方を考えていくことが大切ですね。
自閉症の子供に多く見られる感覚特性の例
些細な刺激に敏感になる感覚過敏の例
感覚過敏の具体的な例をそれぞれ1つずつご紹介します。
【視覚】 ・太陽光や照明が異常に眩しく感じ、時に目の痛みを伴う
【聴覚】 ・雑音に敏感になることで周囲の音によっては集中できなくなったり、注意がそれたりする
【触覚】 ・特定の衣服の肌触りを苦手に感じ、その素材の衣服の着用を極端に拒む 【嗅覚】 ・他の人が気付かないわずかなにおいにも気付いて反応する 【味覚】 ・特定の食べ物しか食べない、偏食がある
刺激に敏感になるがゆえに、特定のものをとことん好み、逆にとことん嫌う傾向にあります。
感覚に鈍感さが生じる感覚鈍麻の例
感覚鈍麻の具体的な例をご紹介します。
【痛覚】
・大きな怪我や痛みに気付かない
【その他】
・空腹感や疲労感に気付かない
・暑さや寒さを感じない。熱いものに身体の一部が触れていても気付かない。
刺激に鈍感になってしまうがゆえに、身体に熱い液体がかかったり、熱いものが触れていても気付かず火傷しやすくなります。同様に、痛みや疲労感に気が付きにくく、知らぬ間に怪我や無理をしていたなんてことも起こりやすいです。先生の対応としては、子供を危険なものから離すことに加えて、危険なものを目で見て判断できるような視覚的工夫を取り入れるなどしましょう。また、血が出たらすぐに大人に知らせることの重要性を子供達に理解させるようにしましょう。
好きな感覚を得るために行う常同行動の例
知的障害や発達障害のある子供には、自分の好きな刺激を求めるために特定の行動や動作を繰り返す常同行動をとるケースも度々見られます。現れる常同行動の種類は多岐にわたり、子供によって頻度なども全く異なりますよ。具体的な常同行動の一例は以下の通りです。
・手をひらひらとさせる ・ジャンプする
・体を揺らす ・グルグルと回転する
・意味もなく拍手をする ・同じところを往復する
・物を口に入れたり出したりする ・爪を噛む
子供の常同行動は、不快感の解消の要求や安心感の追求、また物足りないときの刺激の要求などを理由に行う場合が多いようです。常同行動自体がただちに問題となるわけではありませんが、他者や周囲を巻き込んだり、害を与える場合には対応を考えなければなりません。環境整備や行動の置き換えを図るなど内容によって対応を工夫していきましょう。
子供の感覚特性を理解するうえで重要なこと
感覚特性チェックシートの活用
子供の感覚特性を把握するには、感覚特性チェックシートの活用がおすすめです。シート記入後は感覚特性見える化シートへ出力され、視覚的に分かりやすいシートを活用しながら対処法などを具体的に見出していくことができますよ。感覚特性チェックシートは五感に加えて、前庭覚や固有覚、視覚認知などの細かい項目に分かれています。言語化が難しく感じやすい子供にも答えやすそうですね。ぜひ判断材料として活用してみましょう!
感覚特性の絵本を読んで子供達に気付かせること
感覚というものを知ってからまだ日の浅い子供達にとって、感覚特性に関する具体的な内容を理解するのはなかなか困難なことです。そのため、自分自身に感覚特性があっても、不快に感じる対象が分からなかったり、人に上手く伝えられずに一人で抱え込んでしまったりします。まずは子供達に馴染みのある絵本を通して、子供達自身に当てはまる特性や症状を自覚させましょう。少しでも理解できれば、「僕もこれと同じ!」などのように子供達側から絵本を用いた発信をしてくれるはずですよ。掲載した動画は、感覚過敏にテーマを絞った絵本の読み聞かせ映像になります。後半は症状の解説も付いているので詳細まで把握したい場合にもおすすめです。YouTube上に無料公開はされていますが、お手元においておきたい方はぜひお買い求めください!
言語化が困難な子供の発言の意図を汲み取って共感すること
子供は思ったことを何でも口にしがちですが、意図が思うように伝わらないことも数多くあります。感覚特性について言語化するとなれば、主観的な要素が大きい分、大人に正確に伝えるのはなかなか困難なはずです。子供が言葉に詰まったり、混乱したりしている場合には、先生側がなるべく子供の意図を汲み取って理解するようにしましょう。大人が共感し寄り添うことで、感覚特性による苦痛を常に我慢してきた子供達は安心感を感じることができます。少々言葉足らずな部分があっても症状やつらさをある程度把握できるように、先生方は感覚特性をよく知っておくことが大切ですね!
場面や状況によって変化する感覚特性を理解して柔軟に考えること
感覚特性はもともと個人差が大きいものですが、それは遭遇している場面や置かれた状況によってさらに変化します。例えば感覚過敏になりやすいのは、体調不良時や、緊張や不安、イライラを感じている場合。反対に、好きなことに集中したり安心感を感じる相手といる場合などは、苦手な刺激にも反応がでなかったりします。「この子はこの程度の症状の出方だ」と決めつけることのないようにしましょう。
感覚過敏の子供に対する接し方の原則
無理強いせずに原因を取り除く
感覚特性は生まれつきの脳機能の障害によるものであり、根本的に直すことは難しいといわれています。子供が嫌がっている場合には無理に苦手を直そうとするのではなく、段階的・計画的に苦手な感覚に慣れるためのアプローチを行っていきましょう。特にも感覚過敏の場合には、原因を取り除いたり、原因と距離を置いたりするなど避けるような行動をとることが大切です。たとえば、大きな音の出る場所からは離れたり、気持ち悪さを感じたら無理せず退室したりすべきであることを保育士さんは子供達に伝えていきましょう。
刺激に応じたアイテムを活用する
苦手な感覚を避けるための手段として、積極的にアイテムを活用していきましょう。たとえば、過敏な感覚が聴覚の場合には耳栓、視覚の場合にはサングラス、嗅覚の場合にはマスクなどを身につけるようにして対策をしましょう。アイテムの活用は感覚過敏の子供にとって効果的ですが、活用する頻度には注意が必要です。幼い頃から耳栓やサングラス等を多用することで身体や感覚に悪影響を及ぼす可能性もあります。便利なアイテムではありますが、長時間の使用は避けるように気をつけましょう。
事前に説明を行い心の準備をさせる
過敏な感覚がある場合でも、事前に予告しておくことで心の準備をする時間を与え、不快感を軽減できる可能性があります。たとえば、聴覚過敏の子供には「これから大きな音が2回なるよ」などと伝えることが重要です。大きな音を避けられない場面では、保育士さんなどが可能な限り聴覚過敏の子供へ事前に伝えるサポートをするようにしましょう。また、触覚過敏の子供に触れる必要がある場面では「〇〇のために少し身体をさわるね」と触れることと目的や理由をあらかじめ伝えましょう。
感覚探求の子供に対する接し方の原則
満足するまで自由に触らせる
刺激に対する反応の弱さゆえに、触りたい、握りたいなど触れることに対する欲求が強くなる感覚特性を感覚探求といいます。行動の原因は刺激を弱く感じることにあるので、心地よい感覚刺激を十分に得るために同じものを長時間触り続けて遊ぶことが多くあります。周囲の大人の目には退屈しているように映るかもしれませんが、子供にとって発達につながる大切な機会なのでそっと見守るようにしましょう。今まさに必要としている感覚刺激を満足するまで味わうことが、感覚探求のある子供には大切です。
強烈な刺激を自由に体験させる機会を設ける
感覚の受け取り方が鈍いことで、刺激を受け取るために物の扱い方が多少雑になることがあります。感覚特性によるものなので不器用さの指摘などはせず、壊れて良い物を子供に渡して、思い切り好きなように遊ばせましょう。壊れて良い物で遊ばせる際には、強く叩きつける、力いっぱい握りしめる、全力で放り投げるなどの行為を行いやすいです。ある程度の衝撃を加えても痛くない素材の物を与えることで、安全面にも配慮しながら子供の欲求を満たすことができますよ!
感触に変化をつける
感覚探求のある子供は、自分の好きな手触りの物ばかりを触り続け、他の物にはあまり触れようとしません。子供の興味関心ばかりを優先させていては、他の感触を味わう機会が無くなってしまいます。普段は触れない物に触れる機会を、保育士さんが子供に対して積極的に設けるようにしましょう。異なる感触同士を組み合わせたり、好きな感触の合間に苦手な感触への挑戦を取り入れたりするなど、感触の変化を楽しめるよう工夫することが大切です。
軽い圧力を体験させる機会を設ける
皮膚で感じる表面的な手触りだけが感覚ではありません。皮膚の奥にある筋肉で圧力を感じる感覚を味わうことも感覚探求の特性を持つ子供には必要です。圧力は強すぎると怪我や事故につながってしまうため、軽い圧力を子供に体感させる機会を保育士さんは設けていきましょう。布団をかけて先生方が軽く圧迫したり、小豆やビーズ、プールの水などを用いたりして手や全身で圧力を感じさせる方法などがあります。子供の興味関心などに応じてアレンジを加えるなど柔軟に対応しましょう!
まとめ
先生が子供の感覚特性を理解して生きづらさを解消しよう
今回は、子供の感覚特性による困難や行動の例などをご紹介しました。感覚特性に対する大人の理解が甘いと、子供の感じている苦痛を理解できないまま行動を指摘したり、直すことを強要したりしてしまいます。子供本人に理解を促すことも当然大切ですが、まずは大人が正しい知識を身につけ、適切な対策を行えるようにしましょう。食べ物の好き嫌いなど、感覚特性が原因であることに意外性を感じるものも多いかもしれませんね。無意識に子供達の苦痛を増強させる大人ではなく、苦痛を取り除いて快適な暮らしのサポートができる大人を目指しましょう!