日本では近年、子どもへの性犯罪防止に関する対策が強化されつつあります。その一環として導入されるのが日本版DBS。この制度は、教育や保育分野などの子どもと関わる職種において、過去に性犯罪歴のある人の就業を制限することを目的にしています。今回の記事では、日本版DBSの照会対象や照会期間、制度の課題などについて説明しています。日本版DBSの仕組みを正しく理解する手助けになれば幸いです。
イギリスのDBSとは
犯罪歴の照会と就業制限を行う制度
DBSとはイギリスのDisclosure and Barring Service(犯罪証明管理および発行システム)の略称で、犯罪歴の照会と就業制限を行う制度です。この制度の1番の目的は子どもの安全確保です。また、子どもに関わる仕事に就いている人に対しては、犯罪歴の照会が義務付けられていますよ。特定の犯罪歴がある場合は就業禁止者リストに掲載され、教育や保育の分野では就業ができません。さらに、この就業禁止者リストに登録されている人を、教育や保育の分野で雇用した場合は犯罪になります。
日本版DBSとは
性犯罪歴の確認を義務付ける制度のこと
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日本版DBSとは、イギリスのDBS制度をモデルにしており、子どもに関わる仕事に就いている人に対して性犯罪歴を確認することを義務付ける制度です。この制度の目的は、過去に性犯罪歴のある人が子どもたちと接する職場に従事することを防ぎ、安全な環境を確保することにありますよ。2024年6月19日にこの法案が可決され、2026年度に施行予定です。この法案の正式名称は、学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律です。
日本版DBSが導入された背景
小児性犯罪の増加
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日本版DBSが導入された背景には小児犯罪の増加があります。こども家庭庁のこども・若者の性被害に関する状況等についてによると、16~24歳のうち、4人に1人以上(26.4%)が何らかの性暴力被害にあっています。また、強制性交罪(強姦やレイプ)の認知件数のうち、被害者が20代以下である場合が8割以上、10代以下は4割以上を占めています。そして、令和4年度公立学校教職員の人事行政状況調査についてを見ると、2022年度には153人の教員が性加害を理由に懲戒免職などの処分を受けていました。こうした性犯罪が後を絶たないことから、子どもたちを守るために日本版DBSを導入することで、性犯罪の予防的措置が強化できると期待されています。
教育や保育を提供する事業の特殊性
日本版DBSで子どもに関わる人に対して性犯罪歴を確認する理由には、教育や保育を提供する事業の特殊性が挙げられます。具体的には以下の3つの特徴です。
・継続性:子どもと継続的な人間関係があること
・閉鎖性:第三者の目に触れない状況を容易に作り出せること
以上のような特徴から、教育や保育事業者には性犯罪が生じやすい環境があると言えます。そのため、日本版DBSによって性犯罪歴を確認することは、子どもに対する性犯罪を防ぐために大きな役割を果たします。
日本版DBSの対象となる事業
子どもと関わる事業を展開する施設が対象
日本版DBSは、子どもと関わる事業を展開する施設が対象です。具体的には以下の通りです。
種類 | 対象となる事業 |
義務 | ・法律上の認可対象の施設 ・具体的には、学校や認可保育所、幼稚園や認定こども園など |
任意 | ・民間の教育や保育に関する施設は、任意で認定を受けると、日本版DBS制度の対象となる ・具体的には、学習塾や学童保育、スポーツクラブやインターナショナルスクールなど |
対象外 | ・個人経営の学習塾やキャンプボランティアなど、1人で事業を行っているもの |
義務化の対象となっている施設では教職員やスタッフが必ず性犯罪歴の確認を受ける必要があります。また、現時点の日本版DBSでは、個人が行っている事業については性犯罪歴の確認の対象外となります。
日本版DBSにおける子どもの定義
18歳未満の子ども
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日本版DBSは、子どもたちへの性犯罪を予防して子どもたちの安全を確保するために導入される制度です。ここで言う子どもとは、大学以外の学校の生徒または原則18歳未満の未成年者を指しています。しかし法律上、事業者側の性質によっては18歳以上の学生と接する事業者も対象になる場合がありますよ。例えば、高校は日本版DBSの対象事業者に該当しますが、高校3年生に18歳以上の生徒が多く含まれている場合でも制度の対象です。
日本版DBSで求められる措置
教員や職員への研修
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日本版DBSでは対象となる施設に以下の措置を求めています。
・子どもへの面談を行いやすくする体制の整備
・性暴力が疑われる場合の調査と被害児童の保護
・教員や職員の性犯罪歴の調査
学校や幼稚園などの施設では、教員や職員への研修の実施が必須です。また、新しく雇用する教員や職員だけではなく、現在施設に就業している人も性犯罪歴の調査の対象となります。
日本版DBSの照会対象
性犯罪に関する前科が対象
日本版DBSは性犯罪に関する前科が照会対象となります。例えば、児童ポルノ禁止法違反や不同意性交等罪、痴漢や盗撮などの迷惑防止条例違反が対象です。また、被害者が子ども以外である場合の性犯罪に対しても対象となります。しかし、下着の窃盗やストーカー規制法違反、性暴力といった性犯罪などは日本版DBSの照会対象には含まれません。さらに、対象の性犯罪で逮捕されたとしても、不起訴処分となった場合は照会の対象外です。
日本版DBSの照会期間
一般的な刑の消滅よりも長い期間
日本版DBSにおける性犯罪歴の照会期間は以下の通りです。
実刑判決の場合 | 刑の執行終了から20年間 |
執行猶予判決の場合 | 裁判確定日から10年間 |
罰金刑の場合 | 刑の執行終了から10年間 |
日本版DBSの照会期間は、一般的な刑の消滅よりも長く設定されています。刑の消滅とは、刑罰を受けたことで国家資格などの制限を受けている場合に、その制限が解除されるまでの期間を指しますよ。性犯罪歴については、子どもへの悪影響を防ぐため、刑の消滅期間よりも長い期間にわたり犯罪歴の照会が可能となっています。
日本版DBSの照会方法
事業者はこども家庭庁に申請する
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日本版DBSでの性犯罪歴の照会方法は以下の通りです。
②本人は、①の申請を受けて、こども家庭庁に戸籍情報などを提出する。
③こども家庭庁は、法務省のデータベースをもとに性犯罪歴を照会する。
④こども家庭庁は、性犯罪歴に関する証明書(犯罪事実確認書)を事業者に対して交付する。
性犯罪歴がある場合は、まず対象者本人に通知がいきます。通知内容に誤りがあった場合は2週間以内であれば訂正請求ができます。
日本版DBSで期待されること
教員や職員の性犯罪に対する意識の向上
日本版DBSの導入により、学校や保育施設の教員や職員は、性犯罪防止の重要性をより強く認識することが求められます。これまで性犯罪歴の確認は必須ではありませんでしたが、制度化されることで、雇用時の厳格なチェックが行われるようになります。また、研修や教育プログラムを通じて、子どもを守る意識が高まり、施設全体の安全対策が強化されることが期待されますよ。このように、日本版DBSは、単なる制度としてだけでなく、職員の倫理観や責任感の向上にも寄与すると考えられています。
日本版DBSの課題
膨大な数の確認対象者に対応する必要がある
日本版DBSでは、保育園や学校、放課後児童クラブやスポーツクラブなど、多くの職種が対象です。確認対象者の数が膨大になることから、自治体や関係機関がスムーズに審査を行うために、十分な人員やシステムを早期に構築する必要があります。さらに、審査に時間がかかると、雇用の遅れや人手不足を招く可能性も考えられます。そのため、迅速かつ正確に確認作業を行うための体制整備が求められていますよ。
プライバシー保護の問題がある
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日本版DBSでは、性犯罪歴を含む個人の犯罪歴を確認する仕組みが導入されます。しかし、過去の犯罪歴をどこまで開示するのか、どのように取り扱うのかが大きな課題です。誤って個人情報が漏洩した場合、加害者だけではなく被害者の身元が特定するなど、深刻な影響を与えるかもしれません。そのため、情報の取り扱いには厳格な管理体制の整備を行い、プライバシーを守りながらも適切に運用することが求められています。
確認対象の範囲が曖昧
日本版DBSの対象となる職種や事業者の範囲については、まだ明確に定義されていない部分が多くあります。例えば事務職員やバスの運転手など、間接的に子どもと関わる職種に就いている人の扱いについてはまだ曖昧です。また、民間の学習塾や学童保育などの施設についても、具体的な運用方法や対象範囲については不明瞭な部分が多くありますよ。運用方法を明確にしないと、混乱を招く恐れがあります。そのため、制度を円滑に運用するためには、明確な基準を設けることが必要です。
日本版DBSの今後
こども性暴力防止法が施行される
2024年3月19日、こども性暴力防止法が閣議決定されました。これは、日本版DBSを導入するための法案です。そして、こども性暴力防止法が2024年6月19日に参議院本会議・衆議院本会議において、全会一致で可決され、成立しました。実際の施行については、2026年度中に行われる予定ですよ。しかし、本人の同意が必要な点や対象範囲の限定などの課題も残っています。今後は制度の実効性を高めるための運用改善が求められます。
海外の犯罪歴照会制度
ドイツ
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ドイツでは、雇用時に犯罪歴を確認する制度として無犯罪証明書があります。特に、子どもや未成年者と関わる職種では拡張無犯罪証明書の提出が求められ、過去の性犯罪歴などが詳細に記載されます。公的な青少年福祉団体や学校では、職員やボランティアの採用時にこの証明書の提出が必須とされていますよ。証明書の発行やデータ管理は、連邦司法省の管轄下で厳格に運用されています。また、犯罪歴の開示期間は犯罪の種類や重さによって異なります。
フランス
フランスでは、教育機関や子どもと関わる職種の採用時に、犯罪歴の照会が義務付けられています。主要な証明書として前科簿第2号票とFIJAIS登録情報があり、これらのデータベースには性犯罪や暴力犯罪に関する記録が保存されています。フランスでは、犯罪歴のみを理由に不採用や解雇とすることは認められていません。しかし、職務内容と照らし合わせた際に適性がないと判断されれば、雇用を拒否することができます。
まとめ
日本版DBSは子どもを守るための制度
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いかがでしたか。日本版DBSは、子どもを性犯罪から守るための新たな制度として導入されます。日本版DBSはイギリスのDBS制度をモデルにしており、子どもと接する職種において、過去の性犯罪歴の照会を行います。今まで日本には、雇用時に性犯罪歴を確認する統一的な制度が無かったために、過去に子どもへの性犯罪を犯した加害者が教育や保育の分野で再就職しているケースが発覚しました。新制度の施行により、一定の基準のもとで事業者が求職者の犯罪歴を確認できるようになり、子どもたちをより安全な環境で育てることが可能になります。しかし、日本版DBSの課題はまだ多く残っているため、今後は制度の運用の見直しや改善が必要となるでしょう。