子どもたちが健やかに成長するためには、安心できる環境と適切な支援が欠かせません。その中で、保育における養護と社会的養護は、それぞれ異なる場面で子どもたちを支える重要な役割を果たしています。保育における養護は、日常の生活の中で子どもの生命を守り、心の安定を図る基盤です。社会的養護は、親の保護を受けられない子どもたちが安全に暮らせる環境を提供する制度です。今回の記事では、保育における養護と教育の違い、養護のねらいと内容や社会的養護の形態などについて詳しく紹介していきます。ぜひ、保育の参考にしてみてくださいね。
保育における養護とは
子どもの心身の健康を守る保育
保育における養護は、子どもの心身の健康を守る保育のことです。保育所保育指針では以下のように示されています。
保育における養護とは、子どもの生命の保持及び情緒の安定を図るために保育士等が行う援助や関わりであり、保育所における保育は、養護及び教育を一体的に行うことをその特性とするものである。保育所における保育全体を通じて、養護に関するねらい及び内容を踏まえた保育が展開されなければならない。
(厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00010450&dataType=0&pageNo=1)
つまり、子どもが心身ともに心地よいと思える環境作りを行いながら、子ども自身が主体的に成長できるようにサポートをすることです。
養護と教育の関係
教育は養護を土台にしている
保育活動に含まれる教育は、養護を土台としています。保育所保育指針では、保育における教育について以下のように示されています。
「教育」とは、子どもが健やかに成長し、その活動がより豊かに展開されるための発達の援助である。
(厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00010450&dataType=0&pageNo=1)
つまり教育では、子どもの興味や関心を引き出して自発的な活動を促すための援助を行います。教育は5領域として以下のように定義づけられていますよ。
・人間関係
・環境
・言葉
・表現
養護の2項目とは
生命の保持
生命の保持について、保育所保育指針では以下のように示されています。
① 一人一人の子どもが、快適に生活できるようにする。
② 一人一人の子どもが、健康で安全に過ごせるようにする。
③ 一人一人の子どもの生理的欲求が、十分に満たされるようにする。
④ 一人一人の子どもの健康増進が、積極的に図られるようにする。
(イ) 内容
① 一人一人の子どもの平常の健康状態や発育及び発達状態を的確に把握し、異常を感じる場合は、速やかに適切に対応する。
② 家庭との連携を密にし、嘱託医等との連携を図りながら、子どもの疾病や事故防止に関する認識を深め、保健的で安全な保育環境の維持及び向上に努める。
③ 清潔で安全な環境を整え、適切な援助や応答的な関わりを通して子どもの生理的欲求を満たしていく。また、家庭と協力しながら、子どもの発達過程等に応じた適切な生活のリズムがつくられていくようにする。
④ 子どもの発達過程等に応じて、適度な運動と休息を取ることができるようにする。また、食事、排せつ、衣類の着脱、身の回りを清潔にすることなどについて、子どもが意欲的に生活できるよう適切に援助する。
(厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00010450&dataType=0&pageNo=1)
保育中は、ご飯を自分で食べる、鼻水が出たらティッシュで拭くといった生活習慣を、子どもたちが身につけられるように保育士がサポートします。
情緒の安定
情緒の安定については、保育所保育指針では以下のように示されています。
① 一人一人の子どもが、安定感をもって過ごせるようにする。
② 一人一人の子どもが、自分の気持ちを安心して表すことができるようにする。
③ 一人一人の子どもが、周囲から主体として受け止められ、主体として育ち、自分を肯定する気持ちが育まれていくようにする。
④ 一人一人の子どもがくつろいで共に過ごし、心身の疲れが癒されるようにする。
(イ) 内容
① 一人一人の子どもの置かれている状態や発達過程などを的確に把握し、子どもの欲求を適切に満たしながら、応答的な触れ合いや言葉がけを行う。
② 一人一人の子どもの気持ちを受容し、共感しながら、子どもとの継続的な信頼関係を築いていく。
③ 保育士等との信頼関係を基盤に、一人一人の子どもが主体的に活動し、自発性や探索意欲などを高めるとともに、自分への自信をもつことができるよう成長の過程を見守り、適切に働きかける。
④ 一人一人の子どもの生活のリズム、発達過程、保育時間などに応じて、活動内容のバランスや調和を図りながら、適切な食事や休息が取れるようにする。
(厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00010450&dataType=0&pageNo=1)
保育士は、子どもの情緒を育てるために子どもの感情を受け入れて、自己肯定感を抱けるようなサポートをします。
年齢ごとの養護のねらいと内容
乳幼児
乳幼児に対する養護のねらいと内容は、保育所保育指針では以下のように示されています。
イ 身近な人と気持ちが通じ合う…受容的・応答的な関わりの下で、何かを伝えようとする意欲や身近な大人との信頼関係を育て、人と関わる力の基盤を培う。
ウ 身近なものと関わり感性が育つ…身近な環境に興味や好奇心をもって関わり、感じたことや考えたことを表現する力の基盤を培う。
乳児保育は養護2項目の基盤づくりになります。子どもの心身が未熟なことや成長過程が一人ひとり違うことに配慮して養護を行うことが大切です。
1~2歳児
1~2歳児に対する養護のねらいと内容は、保育所保育指針では以下のように示されています。
イ 人間関係…他の人々と親しみ、支え合って生活するために自立心を育て、人と関わる力を養う。
ウ 環境…周囲の様々な環境に好奇心や探究心をもって関わり、それらを生活に取り入れていこうとする力を養う。
エ 言葉…経験したことや考えたことなどを自分なりの言葉で表現し、相手の話す言葉を聞こうとする意欲や態度を育て、言葉に対する感覚や言葉で表現する力を養う。
オ 表現…感じたことや考えたことを自分なりに表現することを通して、豊かな感性や表現する力を養い、創造性を豊かにする。
1~2歳児の保育は教育のベースとなります。そのため、ねらいに教育の5領域が追加されています。
3歳以上児
3歳以上児に対する養護のねらいと内容は、保育所保育指針では以下のように示されています。
イ 人間関係…他の人々と親しみ、支え合って生活するために、自立心を育て、人と関わる力を養う。
ウ 環境…周囲の様々な環境に好奇心や探究心をもって関わり、それらを生活に取り入れていこうとする力を養う。
エ 言葉…経験したことや考えたことなどを自分なりの言葉で表現し、相手の話す言葉を聞こうとする意欲や態度を育て、言葉に対する感覚や言葉で表現する力を養う。
オ 表現…感じたことや考えたことを自分なりに表現することを通して、豊かな感性や表現する力を養い、創造性を豊かにする。
他者との関わりが増える3歳以上児の保育では、情緒の安定を意識することが重要です。
養護を含めた保育指導計画を書く時のポイント
主語をつけて考える
養護のねらいは主語が保育士になります。そのため、保育指導計画の養護を書く際は、文末を「~する」というように保育士主体になる文章にして、生命の保持や情緒の安定をねらいと内容に反映させることが重要です。保育士が主体となる文章にする理由は、養護は保育士が子どもに対して行うことだからです。「~を楽しむ」や「~を感じる」と書いてしまうと子どもが主体の文章になってしまうため、注意しましょう。また、ねらいを書くときは生命の保持と情緒の安定に触れましょう。内容では、保育士がねらいに対して行うことを具体的に書きます。
社会的養護とは
親に頼れない子どもを保護して養護・支援する
社会的養護について、こども家庭庁では以下のように説明されています。
社会的養護とは、保護者のない児童や、保護者に監護させることが適当でない児童を、公的責任で社会的に養育し、保護するとともに、養育に大きな困難を抱える家庭への支援を行うことです。
(こども家庭庁:https://www.cfa.go.jp/policies/shakaiteki-yougo/)
様々な事情で家庭での養育が難しい場合、児童養護施設や里親制度といった社会的養護が活用されます。社会的養護は、子ども一人ひとりの権利を守り、自立を支援する大切な制度です。
社会的養護が必要となる理由
虐待や経済的理由など
社会的養護が必要となる大きな理由の一つに、保護者からの虐待や経済的困窮が挙げられます。虐待は、身体的・精神的な暴力やネグレクト(育児放棄)などを指し、子どもの成長に重大な悪影響を及ぼします。また、経済的困窮により、十分な食事や教育が受けられず、安全な環境で生活できない子どもも少なくありません。こうした状況下にいる子どもたちは、保護者からの保護や養育が不十分なために健全な成長が阻まれてしまいます。困窮した子どもたちに手を差し伸べるために、社会的養護の介入が必要となるのです。
その他
虐待や経済的理由以外にも、保護者の病気や障害、離婚や失踪など様々な事情で社会的養護が必要になる場合があります。例えば、保護者が長期入院を余儀なくされた場合、子どもを家庭で育てることが難しくなることがあります。また、犯罪や災害によって保護者を失ったり、保護者が育児を放棄して行方不明になったりしたときも同様です。あらゆる場面において、子どもたちの心身の安全を確保しながら彼らの未来を守るために、社会的養護は必要不可欠な制度と言えますね。
社会的養護にいたるまでの流れ
発見から措置までが一連の流れ
社会的養護にいたるまでの一連の流れは以下の通りです。
虐待などにより、健やかな成長に支障をきたす環境に置かれている子どもを、近隣住民や学校等が発見します。
②通告・相談
発見者は児童相談所虐待対応ダイヤル189(イチハヤク)に電話し、最寄りの児童相談所に通告と相談をします。189は匿名でも行うことができます。
③一時保護
児童相談所が対象の家庭や子どもの状況を調査して面談を行います。児童福祉法第33条の規定に基づき、児童相談所長又は都道府県知事等が必要と認める場合には、保護者の同意の有無に関わらず子どもを家庭から引き離します。その後、一時保護所で保護しますよ。児童福祉法第33条第3項では、一時保護の期間は必要最小限として、原則2か月を超えてはならないとされています。
④支援方針決定・措置
一時保護期間中に、児童相談所は対象の子ども自身や家庭環境、保護者の状況調査を継続して支援方針の決定を行います。検討の結果、保護者による養育の継続が不適切または困難であると判断した場合は、児童養護施設への入所や里親家庭に委託するなどの措置が行われます。
社会的養護の形態
施設養護
施設養護とは、保護者から十分な養育を受けられない子どもたちが、児童養護施設や乳児院、母子生活支援施設などで生活しながら養護を受ける形態です。これらの施設では、子どもたちが安心して暮らせるように食事や衣服の提供、医療の支援、学びの機会が整えられています。また、子どもたちの心のケアも重視しているので、心理士や福祉職員が一人ひとりの状況に応じた支援を行いますよ。施設養護は、家庭での養育が難しい場合の受け皿であり、子どもの成長を支える重要な役割を担っています。
家庭養護
家庭養護とは、施設ではなく里親の家庭や特別養子縁組を通じて、子どもたちが家庭的な環境の中で生活する形態です。里親制度では、里親家庭で子どもたちが家族の一員として迎え入れられます。特別養子縁組では、法的に実親との関係が解消され、子どもの新しい保護者として養親が育てますよ。この形態は、施設よりも家庭の温かさや個別のケアが提供されやすいという特徴があります。特に低年齢の子どもにとっては、個別のケアを受けられる家庭環境が心身の成長に良い影響を与えるとされています。
施設養護の種類
乳児院
乳児院は、主に0歳から2歳の乳児を対象にした施設です。保護者が育児を行えない場合や児童相談所の措置により入所することが決まります。乳児院では、子どもの基本的な生活環境を整えて健康管理や発達支援を行います。特に小さな子どもにとって重要な愛着形成を意識しながら、職員が細やかなケアを提供しますよ。また、保護者に対して育児の指導や支援を行い、子どもが家庭に戻れるように準備を進める役割も担います。一方で、乳児が家庭に戻れない場合は、里親制度や特別養子縁組の調整も行われます。
児童養護施設
児童養護施設は、主に2歳から18歳までの子どもを対象にした施設です。保護者からの虐待や家庭の経済的困難、保護者の病気などの理由で保護が必要な場合に利用されます。児童養護施設では、生活支援や教育の場を提供しながら子どもたちの自立を目指した支援が行われます。また、心理カウンセリングや学習支援を通じて心のケアや学びの機会を提供し、子どもたちが社会で自立していくための基盤を築いていきますよ。近年では家庭的な雰囲気を重視したケアや小規模グループでの生活を取り入れた施設も増えており、一人ひとりの子どもに寄り添った支援が行われています。
その他
その他の施設養護には、母子生活支援施設や障害児入所施設、自立支援施設などがあります。母子生活支援施設は、家庭内暴力(DV)や経済的困難から逃れてきた母子に対して、一時的に住む場を提供する施設です。障害児入所施設は、障害のある子どもたちが専門的なケアやリハビリを受けながら生活をする場ですよ。また、自立支援施設は、主に15歳以上の子どもを対象に、自立に向けた生活訓練や就労支援を行います。
まとめ
保育における養護について理解しよう
いかがでしたか。養護の基本的な役割は、生命の保持と情緒の安定を確保することです。保育者が主体となって子どもに寄り添いながら日々の支援を行います。子どもの気持ちを受け止めて共感し、信頼関係を築いていくことが重要ですよ。また、社会的養護は、保護者からの保護を受けられない子どもたちに必要な支援を行う制度です。保育における養護と社会的養護は目的こそ異なりますが、子どもたちが安全で安心できる環境で成長しながら、自立に向けた能力を育むという点では共通しています。養護について深く理解して、子どもたちが安心して成長できる環境を提供していきましょう!