療育における自傷と他害とは?対策や対処法を解説【原因・強度行動障害・臨床心理士】

子どもが他の子どもや大人を傷つけている場面に直面し、焦りや不安を感じた経験はありませんか?また、自分や相手を傷つける子どもの行動を否定したり、強く叱りつけたりはしていませんか?今回の記事では、子どもが自傷や他害の行動をとる原因や、適切な対応の仕方について解説しています。子どもの行動を大人が一方的に否定して子どもの心を傷つけてしまわないように、この記事を参考にして子どもの自傷や他害の知識を深めてみてくださいね。

目次

療育における自傷・他害とは?

自傷は自分自身の身体を傷つけること

自傷とは、自分自身の身体を傷つける行為のことです。今回の記事で言及する自傷は、思春期以降に見られることの多いリストカットなどの自傷行為とは異なり、知的障害などを原因に生じやすい自傷行動になります。自傷行動は保育園の子どもにも見られる場合があるため、具体的にどのような行動があるのか確認してみましょう。

【よく見られる自傷行動】

 

・自分の顔や頭を叩く、爪でひっかく、壁にぶつける
・自分の手や身体を噛む、掻きむしる
・自分の眉毛や髪の毛、まつ毛などを抜く
・自分の爪を噛む など

 

他害は他人の身体や所有物を傷つけること

他害とは、殴る・蹴る・噛むなどの他人を傷つける行為のことです。また、他人の心身だけでなく、他人の持ち物を傷つけたり壊したりすることも他害に含まれます。具体的な他害行動の内容は以下の通りです。確認してみましょう。

【よく見られる他害行動】

 

・他人の腕や脚に噛みつく
・他人の身体を蹴る、つねる、殴る
・他人の髪の毛を強く引っ張る
・他人に頭突きをする
・他人に唾を吐く
・他人の物を壊す、他人に物を投げる など

 

発達障害児に多く見られる行動

上記のような自傷や他害の行動が、かなり強度で高頻度に見られる場合、また長期間継続してみられる場合は、強度行動障害に当てはまる可能性があります。強度行動障害とは、自他の健康や安全を損ねる行動や、他人の物を壊す行動が著しく高い頻度で継続的に起こり、特別な支援が必要な状態のことです。知的障害やASDの特性が強度行動障害を引き起こす原因となりやすいため、発達障害との関連性も考えて適切に対処することが重要になりますよ。

子どもが自傷行動をする原因は?

伝えたい要求を言葉で適切に表現できないから

発達障害の特性によって、言葉と表現の理解や発信などに困難を抱えている場合があります。自分の要求を相手へ言葉で表現することに難しさを感じ、うまく伝えられないことのストレスやもどかしさから自傷行動を行っている可能性もあるでしょう。また目線や表情といった非言語的コミュニケーションの理解が難しいため、その場の状況に合わせて振る舞うことを苦手に感じてストレスを抱える場合も多いようです。

痛みによって不快な刺激を紛らわせたいから

感覚過敏の傾向がある子どもの場合、周囲の些細な音や光、衝撃などから不快感を感じやすくなります。日常的に生じる感覚の不快感を紛らわすために、自傷行動による痛みを求めてしまっている可能性があるようですよ。また、感覚鈍麻が影響している場合は、普段の刺激に物足りなさを感じていたり、自傷行動による痛みを感じにくくなっている可能性が考えられます。このような場合は、傷ができ出血しても自傷行動をやめられない傾向です。

手持ち無沙汰になっているから

子どもがASD(自閉スペクトラム症)の場合、興味関心を持てる範囲が狭く、趣味の内容も限定的になりがちです。そのため、自由時間や時間が余ったときに楽しく過ごすためのレパートリーが少なく、退屈に感じやすくなります。取り組むべき作業や遊びの内容が分からないまま長時間手持ち無沙汰になることで、自らをつねる・叩くなどの自傷行動を行なっている可能性があるようです。このことから、子どもが楽しめる遊びのレパートリーや時間の管理を大人が担う必要がありますね。

楽しさを感じて興奮しすぎるから

自傷行動は、必ずしも困難さや不快感などのネガティブな感情だけが原因になるわけではありません。遊びがあまりにも楽しすぎたり、とても嬉しいことが起こってテンションが高まりすぎたりと、ポジティブな感情が自傷行動のきっかけとなる場合もあるようです。感情が高まりすぎて抑制できない状態が引き金になって、自傷行動を行ってしまうということですね。大人は、子どもの気分が適度に落ち着くように配慮をしましょう。

パニックや癇癪の衝動

子どもがパニック状態になっているときや、癇癪を起こしているときにも、衝動的に自傷行動を行ってしまうことがあります。中にはてんかんに起因する自傷行動もあり、てんかん発作によって神経細胞が興奮することで、パニックや自傷行動を引き起こす場合があります。子どもの意思に関わらず突発的に行ってしまう自傷行動のリスクを減らすには、てんかんによる自傷行動の引き金となりやすい点滅する光や騒音などを避けるようにしましょう。

子どもが他害行動をする原因は?

相手に嫌なことをされたから

他害行動を行う子どもは他害をしてしまう前に、相手から嫌なことをされたと認識して不快感を感じている可能性があります。使おうとしていたおもちゃを先に他の子どもに取られたり、嫌いな食べ物を食事に出されたりなど、さまざまな原因が考えられるでしょう。「遊びの邪魔をされた」「意地悪をされた」など、相手にとっては悪気のなかった行為でも、わざとやられたと捉えて、怒ったり傷ついたりして他害行動をしている可能性がありますよ。

相手の反応を面白く感じているから

他害行動をしたときに、相手の反応にどこか面白さを感じたり興味を持ったりすることで、子どもが他害行動を繰り返してしまう場合があります。たとえば、叩いたときの相手の痛がる表情が変顔のように楽しく見えていたり、つねったときの相手の驚いた声が面白く聴こえていたりするかもしれません。面白いことを求めてしまう子どもの純粋な欲求が、無意識のうちに他害行動につながっている可能性があることを、しっかりと考慮するようにしましょう。

他害行動が悪いことである自覚がないから

他害行動が悪いことであるという認識がないまま、子どもが相手を叩いたり蹴ったりしている可能性も考えられます。「他害行動が悪いことだということは、誰しも知っているはず」と決めつけてしまわずに、さまざまな発達障害の特性を考慮して子どもと接すると良いでしょう。他害行動は相手を傷つけてしまう行動で良くないと子どもに伝える際には、子どもが理解できる適切な言葉を選んで、根気よく何度も伝えてあげてくださいね。

急な予定変更によって混乱し不安になるから

知的障害やASDの特性には、気持ちの切り替えの困難さやこだわりの強さなどがあります。子どもの特性によって、行っている作業を中断できなかったり、予定変更に伴う臨機応変な対応を難しく感じたりするようです。急な予定の変更や進行中の作業を中断することへの不満、先の見通しが持てない不安などから、子どもが他害行動を行ってしまう可能性があるでしょう。子どもの他害行動は混乱や不安などから起こりやすい傾向なので、大人は1日の予定をしっかり管理して、子どもが穏やかに過ごせる環境を整えましょう。

自傷や他害の行動が見られた子どもへの適切な対処法

子どもの気持ちに寄り添い適切な声がけを行う

子どもに自傷や他害の行動が見られたときは、保護者や保育士など身近な大人の対応の仕方が非常に重要です。誤った対応は子どもの自傷や他害の悪化につながる可能性があるため、身近な大人は慎重に対応するようにしましょう。自傷や他害の行動内容や現場の状況だけで大人が一方的に判断をせずに、子どもに優しく声をかけて行動の原因や背景を探ることが大切です。子どもが自身や相手を傷つけてしまっていたとしても、まずは子どもの気持ちに寄り添い、味方になってあげましょう。

子どもの周囲の環境から不快な刺激物を取り除く

子どもの自傷や他害の行動は、感覚過敏が原因となっている場合があります。感覚過敏の子どもが苦手とする感覚を特定し、その感覚を刺激する原因となるものを子どもの周囲から取り除く対応がおすすめですよ。たとえば音に対して過敏な子どもには、大きな音の出る場所などで騒音を遮断するイヤーマフを用意したり、人が少ない静かな部屋を用意したりすると良いでしょう。他にも照明の明るさやマットレスの生地など、感覚の種類に応じて不快な刺激物を取り除いたり、感覚を安定させるために必要なアイテムを取り入れたりして対処してくださいね!

コミュニケーションツールを利用する

コミュニケーション能力の低さが原因で自傷や他害の行動をしてしまう子どもは、自分の意思や要求を言葉で上手く伝えられないことに不満を抱いています。その不満を解消するためには、積極的にコミュニケーションをサポートするツールを活用していきましょう。たとえば、自身の感情が相手に伝わりやすくなる表情のカードや、トイレやご飯などの要求が伝わりやすくなるイラストのカードなどがあります。また、要求を伝える際に役立つセリフを保育士が考え、事前に子どもと共有しておくこともおすすめですよ。

スケジュールの見通しを持ちやすいようにする

子どもは先の見通しが持ちにくい環境に置かれたり、急な予定変更など想定外のことに直面したりすると、苛立ちや不安を覚えて自傷や他害の行動を行う可能性があります。この場合、子どもが視覚的に1日の予定や作業の流れを把握して常に先の見通しがわかるように、保育士や保護者が園や家でスケジュール表を作り提示する対策がおすすめです。また、子どもに強いこだわり行動が見られる場合には、そのこだわりに関連した日課を予定に組み込みましょう。その際、子どもが安心できるように大人が側で見守ってあげてくださいね。

医師に薬を処方してもらう

子どもの自傷や他害の行動内容と頻度が、あまりに酷い状況の場合には医療機関との連携が必須になります。小児科や精神科を受診することで、医師と相談のもと、非定型抗精神病薬や抗てんかん薬、循環器用薬やリチウムなど子どもの症状に適した薬が処方されますよ。精神や行動を安定させる薬の服用で、自傷や他害の行動が落ち着く傾向です。しかし、薬には副作用があります。継続的に服用する場合には、医療機関で定期的に子どもの健康状態を診てもらいましょう。

支援機関への相談や障害福祉サービスの利用を行う

子どもに強度行動障害があり対応に悩んでいる場合には、相談支援事業所の利用がおすすめですよ。相談支援事業所では、相談内容に応じて相談者へ必要な情報提供や助言を行っています。また、適切な障害福祉サービスを利用する支援や関連機関との連絡調整なども併せて行っています。施設への通所の他に在宅でも受けることが可能な支援や、子どもの家族の心身の負担を軽減する支援など、さまざまな支援の種類がありますよ。まずは近くの障害福祉窓口へ問い合わせをして、悩みに合った相談支援事業所を紹介してもらいましょう!

自傷や他害の行動が見られた子どもにやってはいけない対処法

自傷行動を力で無理矢理抑える

自傷行動は反射的に子どもの身体が動いている状態のため、大人が力ずくで無理に抑えようとしても止まりません。自傷行動を行っている子どもへ対応する際に最も重要なのは、自傷行動を行う子ども自身への被害を最小限に抑えてあげることです。たとえば、壁などに頭を打ちつけてしまう自傷行動には、行動を無理矢理止めようとするのではなく、柔らかいクッションや帽子、ヘルメットなどを用意して、子どもの身体を守ることを第一に考えて対処しましょう。

行った他害行動を否定し子どもに強く言い聞かせる

他害行動を行った子どもに最初から「〜してはダメ!」と、行為を強く否定して「もうしない」と一方的に約束をさせたり、他害をされた相手の気持ちばかりを優先して分からせようとしてはいけません。発達障害を抱える子どもの特性によっては、否定語や人の気持ちを理解することが困難な子どもや、自分を強く否定されたと必要以上に過剰な受け止めをする子どもがいるからです。他害行動を行った子どもへの最初の声がけは、否定からではなく「嫌なことがあったんだね」と、理解を示す言葉や共感する言葉から入るようにしましょう。

相手に行なった他害行動と同じ痛みを体験させる

相手に行った他害行動と同じこと体験させ、痛みを理解させるという指導方法は、発達障害のある子どもには向いていません。また、他害行動の後に子どもの要求に応える行為も「他害行動をすると要求が通る」という印象を与え、他害行動の悪化につながるので避けましょう。他害行動の兆候が見られたら、他害対象になりそうな相手を遠ざけたり、他害行動以外のことに目を向けさせる対策がおすすめです。また、子どもが他害行動を我慢できたときは、たくさん褒めたり要求を叶えたりして、他害を我慢したことによる成功体験を積めるようにしましょう。

まとめ

子どもの自傷や他害の行動の原因や対策方法を知ろう

いかがでしたか?子どもが自傷や他害の行動をしてしまう背景には、発達障害やその特性に原因がある場合が多いようです。一見、子ども同士の喧嘩や、相手に対する一時的な暴力のように見えても、原因に応じた適切な対処を行わなければ悪化させてしまう危険性があります。保護者や保育士は医療機関や支援機関などと連携し、正しい知識を身につけて、子どもの自傷と他害の行動の改善を目指していきましょう!